PART2 保護と伝承で根を下ろす

2023-11-03 16:54:00

高原=文

000年余り続いてきた中華文明は極めて豊富で貴重な文化遺産を残した。これらの文化遺産を全面的に保護し、新たなスタートラインから文化の伝承と発展を推し進めることは、新時代の中国の新たな文化的使命だ。 

文化遺産の新しい息吹 

ここ数年、中国は優れた伝統文化の保護と伝承において多くの取り組みを行っている。歴史文化遺跡の保護と修復は強化され、新しい考古学的発見が相次いでいる。各大型博物館美術館の古代文明文物展や無形文化遺産展によって、人々は中華文明の燦々たる過去を知る機会と環境にますます恵まれ、視野が広がり続けている。 

2017年から始まったプロジェクト「考古中国」はこの10年で最も重要な考古学研究事業だ。中国の人類起源文明起源、中華文明の世界文明史における地位などの重要な問題に焦点を当て、1600件余りの考古学の発掘調査を系統立てて行い、中華民族と中華文明の悠久の歴史に対する人々の認識を深めてきた。 

そのうち、最も社会的に注目されたのは、四川省三星堆遺跡の文化財発掘と保護だった。今年7月、三星堆博物館の新館が正式に開館し、新たに出土した国宝レベルの文化財がそろってお目見えした。展示された1500点余りの文化財のうち、初公開のものが600点もあったという。夏休みの間、新館のチケット予約アクセス数は毎日130万回を超え、「アイドルのライブコンサートのチケット争奪戦よりも激しい」とあるネットユーザーはその人気ぶりを冗談半分に語った。 

一方、数千年もの間眠っていた古蜀(四川省にあった古代蜀王国)文明はイノベーション的発想の刺激によって新たな生命が宿った。三星堆の関連文化クリエーティブグッズからひっきりなしに「売れっ子」が生まれ、人々に求められ愛され、一躍して文化博物館の世界で話題を呼ぶ「トップスター」になった。21年、三星堆博物館が発売した、青銅仮面をモチーフとしたアイスクリームは先駆けとなって「文化クリエーティブアイスクリーム」の人気をけん引した。その後相次いで誕生した、変臉(四川省の地方芸能で臉譜<隈取>を瞬時に変える演技)や茶文化、蜀繍などの四川省の特色を取り入れた三星堆ブラインドボックスシリーズ「祈福神官」や川蜀マージャン文化クリエーティブグッズなども高い人気を博した。「これら三星堆文化財の要素と四川省の伝統文化を融合したクリエーティブグッズは面白くてぬくもりがあり、見るたびに思わずほほ笑みが漏れ、好きになりますね」と、三星堆博物館観光エリア産業発展部の任韌部長は言う。任部長の見解では、三星堆文化は古蜀文明の素晴らしい鋳造技術と優れた造形芸術を代表しているだけではなく、中華文明の多様性と豊富性を示している。文化クリエーティブグッズのデザインと制作の趣旨はつまり、中国の優れた伝統文化の伝承と発信をしっかりと行うことにある。時代にふさわしく、受け手に親しまれる方法で文化財の深層にある含蓄を表現し、読み解き、文化財が真に「復活」するようにさせるのだ。 

近年、大波が沸き立つ領海の水域から雪が積もる長城の北側の地域まで、見渡す限りの草原から谷が縦横に走る山岳地帯まで、雪の高原から稲の産地まで、中原の奥地から荒涼としたゴビ砂漠まで、「考古中国」や中華文明探源などの重要事業は著しい成果を上げ、多くの貴重な文化財を救い、保護した。その上、豊富かつ詳細な考古学的発見と研究の成果をもって、連綿と続き、多元一体で、内容や性質の異なるものでも受け入れるという中華文明の発展の流れを証明したのだ。 

使命を背負う国家版本館 

今年7月、中国国家版本館は落成1周年を迎えた。同館は中央総館文瀚閣、西安分館文済閣、杭州分館文潤閣、広州分館文沁閣から構成されている。四つの施設はそれぞれ北京の燕山、西安の秦嶺圭峰山、杭州の良渚、広州の鳳凰山にあり、中華文化の貴重な財産を保管し、典籍を名山に収蔵して後世に伝えることを務めとしている。現在、中央総館が収蔵している出版物印刷物の版本は全10種類をカバーする計1600万冊(点)余りがあり、展示品は1万点(セット)以上に達している。新中国成立以降の各種出版物の版本を全て収蔵した上、歴史文化の伝承において価値がある中国の古書、革命に関する文献、宗教に関する文献、彫刻の拓本、石碑の拓本系譜、貨幣切手、テレビ映画のデジタル版本なども取り入れた。 

「版本には中華民族の精神的遺伝子と文化的ルーツが秘められており、歴史を記録し、文明を検証する『黄金の種』だ。中国国家版本館の建設は中国の版本の資源を恒久的かつ安全に保管収蔵することに着目しており、これは中国人の文化的自信を高め、民族復興に向けた文化的基礎を打ち固める上で重要な意味を持つ」と同館の劉成勇館長は述べた。杭州国家版本館展覧部の責任者である余良峰氏は、従来の意味での版本は古典古書を指すが、新時代において、中華文明の印がついたものは全て版本となると見る。現在、版本館には、古書のほか、民国時代の文献、企業のファイル、さらにプログラムコードのデジタル版本なども収蔵されている。長い時間がたつと、これらも貴重な版本となる。 

中国の歴代王朝も版本の保護収蔵伝承を重要なことと位置付けてきた。周王朝の守蔵室から漢代の天禄閣、唐代の弘文館から宋代の崇文院、明代の文淵閣から清代の四庫七閣まで、専門的な収蔵機構は文化のルーツを育み、文化的脈絡を継続させる機能を果たしてきた。現在、中国国家版本館がこの伝統を受け継いだ。 

杭州では、国家版本館は版本を収蔵する機構だけでなく、市民たちの文化生活を豊かにする役目も背負っている。今年6月、杭州国家版本館はデジタル図書貸出システムを利用して、市内の余杭区の黄湖鎮王位山村で初めて「文潤閲読室」を設け、人々の生活を豊かにするサービスを末端の地域に届けた。村民たちは本を借りるだけでなく、地元の古跡の由緒や伝説などについて話し合うことができる。 

昨年に開館してから、杭州国家版本館は「文潤講壇」「文潤閲読室」「文潤ボランティアサービス連盟」などの看板となるシリーズイベントを実施した。「文潤講壇」はこれまで3回行われ、ライブ配信の視聴者数は延べ70万人を超えた。版本関係者が版本を巡る物語を語る「文潤講座」は累計で120回以上開かれ、直接参加した人は延べ6000人を超えた。杭州国家版本館の責任者によると、これからもさらに多くの「文潤閲読室」を設け、文化で人を啓発し、美で人を育む方針で、公共文化サービスが農村部、末端地域へと広まるよう後押ししていく。 

伝統文化が題材の新たな映画 

今夏の映画シーズンで、『長安三万里』と『封神第一部』という中国の伝統文化を題材にした2作品が話題を呼んだ。8月20日時点のデータによると、アニメ映画『長安三万里』の興行収入は17億6000万元で、中国映画史上でアニメ映画の興行ランキングの2位にランクインし、古代の神話を脚色した映画『封神第一部』の興行収入は23億に達した。これからの第二部と第三部も来年と再来年のヒット作になると見込まれている。この2作品がこの夏に社会的な話題作となったのは、近年の若者の伝統文化に対する情熱と密接に関わっている。これは漢服ブーム、詩詞ブーム、考古文化財展と関連文化クリエーティブグッズの人気と共に、大衆の伝統文化への強い関心を映し出した。そして、これらは伝統文化の単純な伝承や再現にとどまらず、現代の意識で歴史や神話の中の人物、物語について創造的な再編成と表現を行い、伝統文化にこの時代で新たな活力を発揮させるようにしている。 

『長安三万里』で、観客は唐代の詩人高適の回想に沿って、唐の最盛期に高適が李白、杜甫、李亀年ら文人と一緒に遊歴したことを振り返りながら、その背後に潼関の戦いや安史の乱など唐王朝が隆盛から衰退に転じた歴史的出来事を頭に浮かべた。盛唐時期の文化に関する映画というより、李白と高適の2人が激動の時代を生き抜き、理想を追い求めた内容だといえよう。現代の若者は映画から自身が直面している困難を見つけ、登場人物の楽観さやおおらかさから力をもらえたのだ。 

シリーズ映画『封神第一部』は中国でよく知られている古典小説『封神演義』が原作だが、映画ではようやく女性(妲己)が災いの種として描かれなくなり、善悪二元論でキャラクターが描かれることもなくなった。伝統的な神話的物語は現代の意識によるアップデートを経て、人間性、欲望、正義、犠牲などを巡る深層的な議論を呈しているのだ。同映画のウーアルシャン監督は、価値がある文化を若者が絶えずそこから力をくみ取れるものに変え、彼らに中国文化の旺盛な生命力を感じてもらいたいと語った。彼が3部構成の『封神』を製作したのは、自分の子どもが米国のスーパーヒーローしか知らず、中国の代表的な神話に無知であってほしくないと思ったからだ。 

古典を題材にした文学芸術作品は創造的な転化と革新的な発展を遂げ続けてこそ、伝統文化の強い生命力と感化力を活性化できる。近年好評を博した『西遊記 ヒーローイズバック(西游記之大聖帰来)』や『ナタ~魔童降臨~(哪吒之魔童降世)』『白蛇:縁起』などの作品が興行収入と観客の評価という両面で成功したのも、このポイントを押さえたからだ。 

『封神第一部』のワンシーン

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