PART5 国内外大会が消費けん引
段非平=文
国民総フィットネスがもたらした活気はスポーツ市場の消費拡大につながっただけでなく、スポーツ産業の成長も後押しした。近年、スポーツが文化・観光、学生の学校外教育活動などと結び付き、スポーツ産業の発展をけん引する新たなエンジンとなりつつある。
活気づくスポーツ消費
「これまでの『618(6月18日頃に行われる中国最大級のECセール)』は主に服や化粧品などを買っていましたが、今年は運動器具を買いました」。山西省太原市の林佳さんはもともとジムに通っていたが、最近は仕事が忙しくなったため、自宅で体を鍛えようとネットでダンベルや縄跳びの縄などを買った。「昼休みに少しでもやれるように、同僚とお得な共同購入の方法でヨガマットを買いました。みんなも健康のためにお金を惜しみません」
ここ数年、各ECプラットフォームでスポーツ用品人気が続いている。オンラインでのスポーツ消費の成長の要因は国民総フィットネスの展開とSNSの後押しにある。中国版インスタグラムと呼ばれ、美容・ファッション・旅行などの情報を共有するSNS「小紅書(RED)」には、「スポーツ用品の買い物のコツ」に関する書き込みが1万件以上もある。SNSで人気を呼んだフライングディスクやサーフスケート、ピックルボールなどの「流行のスポーツ」用品の売れ行きは好調が続き、月間販売量が1万点を超えるストアも少なくなかった。6月にサッカーアルゼンチン代表が中国で親善試合をしたことによって、今年の「618」でスポーツ用品の存在感はいっそう高まった。京東(JD.com)のデータによると、スポーツ用品の取引額は前年同期比で100%以上増加し、さらにランニングシューズやヨガウエアなどの取引額は同150%以上も増加した。
オンライン消費の好調が続く一方、オフライン消費も強い勢いを示し、重要なスポーツ大会は消費を拡大する「起爆剤」となった。第31回ユニバーシアード大会の開催を契機に、成都のスポーツ産業の規模は1000億元台に上り、昨年の市民1人当たりのスポーツ消費額も前年同期比で8・0%増加した。今年蘇州で行われた第18回世界国別対抗バドミントン選手権(スディルマンカップ)大会は観客10万人以上を動員し、チケット収入は3000万元を超え、同大会の最高記録を更新した。
スポーツ消費の持続的かつ安定した成長を後押しするために、多くの地方は数億元規模の「消費券(クーポン)」を配布することで、実店舗での消費を刺激し、消費のポテンシャルをいっそう引き出した。上海市普陀区に住む王斌さんはスポーツ消費券を3枚もらった。「サーフスケートを初めて体験したが、とても楽しかった。これからももっとやってみたいです」
健康中国戦略と国民総フィットネス国家戦略の踏み込んだ実施につれ、中国のスポーツ消費は発展の「高度成長期」に突入し、中国はすでに世界最大級のスポーツ消費市場になった。現在、中国のスポーツ消費は年間約1兆5000億元の規模になり、25年までに2兆8000億元に成長すると予測されている。大手国際会計事務所プライスウォーターハウスクーパース(PwC)が発表した「スポーツ産業調査2023」によると、今後3年から5年の間、中国のスポーツ消費市場は最低限5・2%の年平均成長率をキープするという予測が出ている。「一連の促進策によって、中国のフィットネスとスポーツ消費のポテンシャルは急速に発揮され、スポーツ産業の規模が一段と上がることが期待できる」とPwC中国スポーツ業界主管パートナーの周星さんは述べた。
大会を追って旅をしよう
見どころが多いスポーツ大会は多くの観客の心を引き、人々の「大会を追って旅をしよう」という熱意をかき立てた。スポーツと文化・観光の緊密な結び付きによって、ある大会を見るために開催地の町に足を運ぶような人はますます多くなり、スポーツ大会がもたらした人の移動は文化・観光消費の拡大につながった。
ユニバーシアード大会は世界に改めて四川省・成都の魅力をアピールした。大会の開催期間は夏休みと重なり、成都の武侯祠、杜甫草堂、寛窄巷子などの観光スポットは空前の観光客ラッシュを迎えた。友人と一緒に観光にやって来た大学生の李燕燕さんは好きな競技種目の試合を観戦し、中国でも大人気のパンダ「花花」を間近で見ることができ、望みがかなった彼女はすっかり成都のレジャー文化のとりこになった。「素晴らしい大会と豊かな観光資源が、この町に満ちあふれる活力やおしゃれな雰囲気を感じさせてくれました。今回は運動好きな友達とたくさん知り合えて、収穫がいっぱいです」
オリンピックやワールドカップ、アジア大会などの国際大会のほか、各地で開催される国内大会も多くの注目を集めた。コース総距離が4200㌔余りの中国「環塔ラリー」は新疆ウイグル自治区のアクス(阿克蘇)地区、クズルス・キルギス(克孜勒蘇柯爾克孜)自治州、カシュガル(喀什)地区、ホータン(和田)地区を通った。ホータン地区のレストランのオーナーであるアイルケンシャティ・ハリムラティさんによると、大会の開催期間中、各地から来たお客さんの中には、観戦のためにわざわざやってきた人も少なくなかった。ホータンは古代シルクロード南道にある要地であり、深い文化の蓄積があり、独特な魅力を持っている。人々は観戦とともに、ここの景色やグルメ、無形文化遺産を楽しみ、現地の観光消費の拡大に寄与した。「ホータンに来たことはありますが、今回観戦を兼ねて再訪したのは、グルメを楽しみ、ヨートカン(約特幹)故城を見学し、古代の(古代中国の西域にあったオアシス都市国家)文化を体験したかったからです」と北京から観光に来た劉波さんは話した。
内蒙古自治区・ヒンガン(興安)盟で行われる蒙古族の伝統的な行事「ナダム」は各地の人々を草原へといざない、スピードとパワーの強烈なぶつかり合いを感じさせ、毎年夏に開催される青海湖国際サイクルロードレースは青海省の観光事業の発展にいっそう「火をつけ」、湖北省巴東県の森林ハーフマラソンは美しい生態環境によって注目を集めた……。近年、各地は「スポーツ+文化・観光」という新しい融合的発展の方法・モデルを積極的に模索し、現地の観光市場を新たに活気づけた。「スポーツは一定の割合でオフシーズンの観光者数の低下といった観光業の課題を緩和でき、より大きな付加価値をつくり出せます。『スポーツ+文化・観光』のモデルはまだまだ大きな可能性を秘めており、各地はそれぞれの強みを生かし、この『ブルーオーシャン』の開拓に努めるべきです」と北京大学国家スポーツ産業研究拠点の何文義事務局長は語った。
子ども向けスポーツ教室の人気
今年の夏、各種スポーツ教室はスポーツ消費市場の「売れっ子」になった。国家水泳センター(通称「水立方」)では、子どもの歓声や親とコーチの励ましの声がひっきりなしに上がった。「今年は夏休みの間だけでも、水泳教室に申し込んだ人数は約1万5000人でした」と同センターでコーチをする袁心妍さんは説明する。「子どもたちの教室に通いたい、水泳を習いたいという意欲が感じられます。大学入試の加点を目当てに一定のレベルに達するように子どもを水泳教室に通わせる人は多かったです。しかし、今そのような親は少なくなり、子どもに運動を楽しみながら丈夫な体をつくってほしいだけなんです」
2021年、中国は義務教育段階の学校の宿題や塾通いの負担を減らす政策を打ち出した。児童生徒は学校外での自由時間が増え、趣味と健康を両立させたスポーツ・運動は最も人気のある選択肢になった。「受験競争に苦しむ子が練習を楽しむ子に変わったケースが増え、スポーツ教室の市場により大きな発展の可能性がもたらされました。われわれは今年、70余りの練習コースを組んでおり、利用者はそれぞれのニーズに合わせて選ぶことができます」と国家水泳センターの楊奇勇総経理は言った。
国家体育総局の統計によると、中国のスポーツ消費者のうち、3~9歳の割合が最も高く、児童の関心に基づく各種スポーツ教室は保護者の「素質教育(子どものさまざまな素質や人間性を育てようとする教育方式)」への投資の最優先候補になっている。
広州市天河区に住む小学校2年生の張瀚文くんは、幼稚園のときから水泳、バスケットボール、サッカー、バドミントンなどのスポーツ教室に通っている。「子どもは楽しい練習の中で体を鍛え、同世代の友達との友情・チームワークが深まりました。プロになることを求めていません。心身の健康を願うことはもちろん、元気いっぱいな男の子が運動でエネルギーを発散できるようにさせてあげたいです」と母親の高爽さんは言う。「教室の費用は安くありませんが、それなりの価値があると思います。スポーツは非常に優れた教育方法で、子どもの問題解決能力、人とのコミュニケーション能力を培い、教養・知識の勉強よりも重要かもしれません。子どもの意欲が続く限り、これからも通わせ続けます」
近年、中国のスポーツ教室の市場はますます熱を帯び、業界の総規模はすでに2000億元を超え、関連企業は約40万社に達した。清華大学スポーツ産業発展研究センターの王雪莉主任は、市場の活発化・人気の高さ・自信の強さが今後のスポーツ教室市場の特徴となり、よりバラエティーに富む練習コースのプランも人々により多くの選択肢を与えると予測する。
国民総フィットネスの潮流に動かされ、新たにスポーツ消費する場面が次々に出て、スポーツ産業の成長の余地も拡大し続けている。将来の中国のスポーツ消費市場は、1兆元規模の新たなブルーオーシャンになると見込めるだろう。
夏休みの間、山東省滕州市の鮑溝鎮中心小学校のサッカー教室が始まり、多くのサッカー好きな青少年がグラウンドに来て、練習や試合を行った(vcg)