PART2 社交性の高さも選択肢に

2023-11-30 17:47:00

高原=文

いま中国ではやっている大衆スポーツといえば、ジョギングやジムでの筋トレ、バドミントン、卓球、バスケットボールなど従来の競技の他に、自然を肌で感じられ、社交性の高いアウトドアスポーツが挙げられる。ポストコロナにおいてこれらは身近なスポーツとなった。 

エクササイズのライブ配信 

社交性の高いスポーツの流行の予兆は、昨年春に始まった劉畊宏さんのエクササイズ配信から垣間見える。もともと歌手だった劉さんは、TikTokのエクササイズダンスのライブ配信で数多くのフォロワーを獲得しブレイクした。最盛期はフォロワー数が7000万人を超え、1回のライブ配信の視聴者数が4476万7000人に達した。毎週火、木、土曜日の午後7時半になると劉さんはライブ配信を行い、視聴者にエクササイズを教えながら、フォロワーとやりとりする。今でも劉さんのTikTokのアカウントには6000万人ほどのフォロワーがいる。 

劉さんのエクササイズダンスの人気の秘密について、ネットではさまざまな意見が飛び交う。「本当に教えたいという気持ちが伝わってくる」「体を動かしながら口も動かしているから、疲れて動けなくなっても、面白いトークを聞くだけで腹筋が八つに割れる」。また、彼の友人の周傑倫(ジェイ・チョウ)の歌『本草綱目』をBGMに使っていたからだと答える人もいる。誰もが知る歌が流れると、コロナ対策期間中に在宅勤務をして人付き合いが減った若者は、外とのつながりを感じ、「みんなと一緒に運動する」ことに一体感を覚えた。 

劉さんのエクササイズの人気が最高潮だった頃は、毎晩7時半になると、大学の寮やコミュニティーのマンションが一斉に「揺れ」始め、男の子も女の子も自室でスマホの画面を見ながら、50歳近い劉畊宏さんと共に体を動かし汗をかいたという。 

劉さんの大ファンである西安市在住の童さんはこう述べた。「ライブ配信を毎日楽しみにしていて、体を動かさないと居ても立ってもいられなかったんです。以前までは、立つより座る、座るより寝転がるタイプの人間でしたが、エクササイズを始めてから、びっしょりと汗をかいて爽快な気分になるのが好きになりました」。また、エクササイズダンスはダイエットに効果的だから必ず続けると言う。エクササイズを始めたきっかけについてはこう話す。「お手軽だからです。スマホとヨガマット、フィットネスシューズがあればやれます。また、ライブ配信を見ながら運動しているとつながっている感じがあり、やりとりもできます。一人でエクササイズしてもやっぱりさびしく、互いに見張っていることが必要です。運動しているみんなに影響されて、自分の体も動くんです」 

iiMedia ResearchのCEO張毅さんは次のような考えを述べた。「劉さんの人気の背景にはライブ配信業界の成長があります。ライブ配信のエクササイズは非常に良い社交ツールで、参加者が互いに励まし合えます。多くの人々がオンラインフィットネスを求めるのは、ハードルやコストが低いからだと思います」 

スキーとサーフスケート 

新型コロナの収束に伴い、世間で高まっていた「外とのつながり」需要はオンラインからオフラインへシフトし、インドアからアウトドアへ広がり、社交性の高い各種アウトドアスポーツが次々にブームになっている。 

昨年の北京冬季オリンピック開催、さらに谷愛凌選手や蘇翊鳴選手らスター選手の活躍によって、ウインタースポーツの人気が高まっている。北京をはじめ、各地でスキー場やスケート場が急増し、年中温暖な海南省にも多くの室内スケート場と室内スキー場が開設された。 

経済メディア「第一財経」の調査によると、ウインタースポーツ産業の消費者のうち、南方在住者は北方在住者より消費意欲が高い。また、スキーは若者に限らず、2歳の子どもから70歳の高齢者にまで愛されており、幅広い年齢層が参加できるため、家族ぐるみで楽しめる。よって、ウインタースポーツ施設も社交の場となっている。 

スキー用品の販売とスキースクールを運営するSNOW51副総経理の朱驥さんによると、店のお客さんの60%はファミリー層で、子連れの母親や親子3世代でも来るという。「中には上海在住の60代の女性もいます。スキーをするようになってから、広場ダンスの仲間を集めて一緒にスキー場に行っているんです。また、スキーをきっかけに家族ぐるみの付き合いを始めたお客さんもいます。レッスンで知り合って、同世代の子どもや親同士で交流を深め、一緒にスキーや食事に行くんです」 

ウインタースポーツと比べてコスパが良く、年中できるサーフスケートも昨年からはやっている。スケートボードとの最大の違いは、足で地面を蹴る必要がなく、上半身を左右に動かすだけで進むことができることにある。しかも参入のハードルが低く、初心者でも動画を30分ほど見るだけで基礎技能を身に付けられる。サーフスケート愛好家のGAGAさんは、「このスポーツの一番の魅力は、都会のコンクリートの地面でスキーとサーフィンの気分を味わえることです」と言う。GAGAさんはウイーチャットで二つのサーフスケート愛好家グループに入っている。メンバーは一緒にサーフスケートをする時間についてやりとりするほかに、サーフスケート動画を投稿する。「グループに通知が届くと、誰かがすぐ返事し、あっという間に10人、20人が参加を表明します。参加は自由で、費用も不要、適切な場所があれば行くだけで、参加者は知り合いの場合もありますが、だいたいは初対面で、一緒にサーフスケートをするうちにだんだん親しくなるんです」 

サーフスケートに関する研究を行った中国社会科学院の李闖博士研究員は次のように考える。サーフスケートの人気の理由は、若者が周りの友達や環境とのつながりを強くしたいことにある。若者は街でサーフスケートをやるとともに、住んでいる場所の周辺がどんな様子なのか、近所の人や物事とつながりをつくれるのか、集団にうまく溶け込めるのかを考え、とても重要視している。 

フライングディスクとキャンプ 

1940年代に生まれたフライングディスクは、ラグビーやバスケットボール、フットボールなどの特徴を兼ね備えた団体スポーツであり、2001年にワールドゲームズの正式競技となった。21年下半期から中国で徐々に普及し始め、各都市の空き地や公園、グラウンドでは若者がディスクを投げたり走ったりする姿が見られる。 

フライングディスクを初めて見た多くの人は、北京っ子の微微さんのように、「これは犬のおもちゃじゃないか。人間がどうやって遊ぶのか」と困惑するだろう。たまたま友達に誘われて北京東四環にある屋外バスケットコートに来た彼女は、好奇心から初めてフライングディスクで遊んだ。コツはすぐにつかめるが、うまくやるには神経を集中し、チームワークも必要だと気付いた。フライングディスクの試合には審判がいないため、試合中に意見が食い違えばチーム双方が話し合って解決する。「メンバーたちは試合を円滑に進めるために相手を尊重する姿勢でトラブルを解消するので、言い争いが続くということはありません。これこそフライングディスク精神だと思います。これまでフィットネスやジョギングをやっていたので、そこで培った忍耐力をフライングディスクの試合で発揮することができました。チームメートに応援されて、本当にうれしかったです」と微微さん。退社後にジムでイヤホンをしながら黙々と筋トレしていた微微さんだったが、今では週に3回、フライングディスクの試合に参加するようになった。遅くまで残業しても、必ずフライングディスクをやってから帰宅する。試合の休憩中にチームメートと仕事や生活について気楽に話し合い、彼女は人見知りな性格から社交的で明るい人間になった。 

昨年、フライングディスクの人気が急上昇し、ウイーチャットのモーメンツをのぞけばフライングディスク関連の投稿を見つけられた。広州でフライングディスクに触れたのが比較的早かった楊冠国さんは、茘枝フライングディスククラブを立ち上げた。楊さんはフライングディスクの爆発的ヒットの理由を、始めやすさと低コストにあると見る。施設利用料金は1人30~100元ぐらいだ。また、多くの男女が混合で試合をする数少ないスポーツであるという点も楽しさを倍増させている。昨年夏にフライングディスクがブームになったとき、広州市のコミュニティーサッカー場の3分の1がフライングディスク愛好家のレンタルコートになり、毎日2時間ほどの試合が行われた。プレイヤーは普段ウイーチャットのグループで参加を申し込み、毎回50人程度が参加する。 

フライングディスクと同じく、キャンプがアウトドアスポーツとして取り上げられたときもほとんどの人が驚いただろう。中国人にとって、リュックを背負ったり自家用車を運転してキャンプに行くのはスポーツではなく旅行だからだ。しかしここ数年、キャンプはサイクリングやハイキング、ルアーフィッシング、SUP(スタンドアップパドルボード)などと組み合わせて行われるようになった。25~34歳の愛好家が多く、全体の40%を占めており、主にバラエティー番組からキャンプの情報を得ている。大都市ではキャンプに対する若者のニーズが高まっている。忙しくプレッシャーが大きい生活の中で、若者はキャンプを通じて自然と触れ合い、心身共にリフレッシュしようとしている。 

旅行情報メディア「馬蜂窩」のキャンプ産業研究レポートによると、キャンプをする理由として、自然が好きで、いつもと違う生活を体験したいということが挙げられるほか、家族や友達との仲を深めたいという理由もある。親子や友達同士での参加は全体の60%以上で、「複数人でのツアー」がキャンプ愛好家に好まれていることが見て取れる。みんなで行動し、自然を探索し、体を動かすのは、互いの絆を強くするだけでなく、長く維持し、強固にする。特に若いキャンプ愛好家の中でそういう効果が明らかである。若いユーザーが集まるSNSアプリ「Soul」によると、8割近くの「95後」(1995~99年生まれ)が、キャンプを通して長く付き合える友達ができたと答えた。一方、ソロキャンプを好む人はわずか4%だ。 

前述のスポーツのほかに、さまざまなスポーツが人々に親しまれている。今年発表されたアウトドアスポーツ業界のすう勢に関する白書によると、ジョギングやテニス、サイクリングの人気が高まり続けており、リバートレッキングやルアーフィッシングも注目を集めている。 

四川省第5回全省民ウインタースポーツ祭に各地から多くのスキー好きが訪れた(vcg)

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