文化財を再生し後世へ
故宮博物院には一般開放していない「病院」がある。ここにはにぎやかな観光客はおらず、静かな修復室、精密機器、そして日がな時間と闘う人々しかいない。彼ら故宮文化財保存修復部の修復師たちは両手で歴史と対話し、匠の心で文明をつないでいく。
時が刻む暗号解読
「養心殿の本殿の扁額には漢字と満州族の文字が刻まれていて、その上下を姿の異なる龍が2匹ずつ取り囲んでいるところが目を引きます」と木器修復組修復師の李敬源さんは指摘する。時間の流れとともに扁額にも避けられない損傷が発生し、養心殿の保存修理工事に合わせて李さんは扁額の龍頭部分の修復に専念している。

修復の第一歩は、3Dスキャン技術で現存する龍頭の底面データを取り、3Dモデリング技術を用いてリバースモデリングを行い、底面の起伏の自由形状を復元することだ。「モデリング作業中は模型を少しだけ圧縮したり平らにしたりして適当な幅にするなどの微調整が求められます。同じ木工職人が作った二つの龍頭であっても、寸法や感覚に差異があるからです」と李さん。
木器修復作業には、木材の選定、加工、木工品制作、彫刻、手入れが含まれる。3Dプリンター技術が比較的進歩したとはいえ、修復師たちは依然として伝統的な木工制作と修復技術を守り、例えば接着剤も昔ながらの方法で作ったものを使っている。「修復とは文化財を物理的に再建するという意味合い以上に、古代の職人の知恵と技術に対する継承と尊重なのです。手工芸の技を残さなければ伝承は意義を失います」
千年のパズルを埋める
金属文化財修復室の一角では、修復師たちが提梁卣(酒器の一種)の手入れと清掃を行っていた。ベテラン修復師の王有亮さんによれば、この提梁卣はもともと100片余りの破片をパズルのように継ぎ合わせて修復したものだという。破片の文様、厚さ、色などから一片ずつ元の位置に正確に戻していった。
日常的な修復作業のほか、他機関と協力し、最先端の課題の研究も行っている。「大半の青銅器は器壁が薄く、従来のはんだ付けでは器物の重量が大きくて部品が外れるかもしれません。そのため、一部の大学と協力して、レーザー溶接の冷光源技術を利用し、青銅器本体を傷つけずに修復させられるかを研究中です」と修復師の金大朝さんが教えてくれた。
定年後再雇用の身だが、王さんの仕事の姿勢は今までと変わらない。彼にとってここは単に働く場所ではなく、先人と対話し、歴史とつながる精神的なよりどころなのだ。彼は生涯を文化財保護事業にささげるつもりであり、弟子たちが技能を受け継ぎ、物言わぬ国宝が再び「口を開き」、千年の時を超える物語を語り継ぐことを願っている。
止まった振り子を動かす
亓昊楠さんは古時計修復室の中堅的存在で、2005年に大学を卒業し、「手に職をつけたい」という思いから故宮文化財修復部門に応募し、就職した。当時、故宮での仕事はまだ人気がなく、長い間、古時計修復室には彼と師匠の王津さんしかいなかった。
師匠からコツを教わってから、亓さんは練習を重ねた。現代の置き時計や掛け時計を分解し組み立て、機械構造に慣れ親しみ、友人の家の古い時計を借りて練習したこともあった。厳格な審査を突破し、彼はついに師匠の指導の下、本当の文化財に触れる機会を得た。

故宮の時計の大半にはからくり仕掛けが施され、仕掛けごとに必要な内部の動力構造が大きく異なるため、見ただけでは内部の具体的な状態まで推し量れず、分解してみなければ分からないことが多々ある。「時計の内部設計構造を推察し、先人の設計が想像以上に精巧だと分解してから気付かされることもあります」と語る亓さんにとって、時計の修復とは、先人との時空を超えた技術的な腕比べでもあるのだ。
文化財保存修復部主任の屈峰さんによると、故宮博物院の文化財保護修復体系の技術的な基盤は、清朝の内務府造弁処における各文化財の伝統的な制作技術およびこれを基礎とする修復技術に由来する。しかし文化財の保護は再制作を意味しない。故宮は文化財が担う価値を最大限守ることを文化財保護の目的としており、そのために保護・修復の方法を選択し、関連措置を実施している。
文化財の価値を最大限守るという目標を実現するためには、伝統技術の核心を守り抜くとともに、現代科学技術のサポートを欠かしてはならない。この考えに基づき、故宮文化財病院は多くの実験室を設立し、X線、3Dスキャン、材料分析などの手法を導入している。木器の修復には非破壊検査を、青銅器の修復にはマイクロイメージング分析を、時計の修復には動態シミュレーションソフトを使うなどして、修復に科学的根拠を提供している。
故宮文化財病院では、破損し、ほこりをかぶりさびた文化財の数々が修復師の手で息を吹き返している。匠の心で歴史と対話し、科学技術で未知を解き明かし、技術の継承で文化をつなぐ修復師は文明の守り手でもあるのだ。
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