世界が再び注目する中国の「安定」

2026-03-06 15:54:00

拓殖大学教授 富坂聰=文

世界は再び中国という「安定」を目撃する流れに組み込まれている。

今年3月5日、全国人民代表大会で発表された「政府活動報告」(以下、報告)を読み、真っ先に感じた印象だ。

報告の中で「国際的に近年まれに見る衝撃や試練」と表現された現状を習近平国家主席はドイツのフリードリヒ・メルツ首相との会談(2月25日)で「第二次世界大戦終結以来最も深い変化」と表現した。世界の不安定要因を挙げれば枚挙にいとまがない中、世界が持続的に発展を模索しようとすれば、やはり中国の安定感に注目せざるを得ないのだ。

報告は従来、回顧と評価に始まるが、そこでは5%の国内総生産(GDP)の伸びを達成したことに加えて「住民所得の伸び率が経済成長率と同ペース」だったことが指摘された。コロナ感染症発生前から可処分所得の伸び率を重視する中国式「民主主義」の特徴だ。

世界が目撃した科学技術のイノベーションの数々の成果に触れる前に、貧困脱却と逆流防止、児童の教育問題に触れているのも「民生重視」の姿勢の表れだ。

こうした点は時に西側のエコノミストから「経済対策の遅れ」との批判につながるが、西側政治との哲学の違いなのだろう。

選挙対策を重視する西側の政治ではしばしば政策に即効性を求め、財政規律を軽視するが、中国は全体のボトムアップと長期計画を重視する。

後者の代表が「第15次5カ年計画」(=15・5)であることは言を俟たない。「14・5」では新エネルギー車やロボット、人工知能(AI)で目覚ましい進歩を遂げた。それらが、グリーン・低炭素発展を推し進める中で達成されたのは注目に値する。「15・5」では量子技術、エンボディドAI、ブレインマシンインターフェス(BMI)、6Gなど6大未来産業の発展が中心となるが、報告でも「社会全体のR&D費の伸び率を年平均7%以上とすることを提起」されていて、「14・5」の勢いが維持されると予測される。

一方で報告は「国内経済が大きな転換期を迎え、深層部の構造的な問題が顕在化しつつあり、消費と投資の成長に必要な原動力が不足した」と懸念も示す。不動産市況の低迷と個人消費の湿りが課題なのだ。

この問題と国際情勢の逆風が、今年の経済成長率の目標が4.5%~5%と微減となった理由だろう。対米貿易の不安定さは「一帯一路」参加国との貿易の拡大などでカバーされているが、依然として不安定だ。

これらの問題への対策で注目されるのは中央経済工作会議で打ち出された8大任務の中の「内需喚起」である。「消費押し上げ特別行動を踏み込んで実施する」という。

キーワードは「改革措置とマクロ政策との連携を強化」で、報告では、「消費分野の不合理な制限措置を撤廃」し「引き続き適度な金融緩和政策を実施する」とある。相当規模の財政支出が維持されるということだが、例えば「個人向け消費ローンとサービス業経営主体向けローンの利子の補給」に1000億元が充てられるという。

その上で学生から労働者まで休暇取得を奨励し、サービス消費の拡大を目指し、インバウンドをさらに発展させるという。買い替え支援に予算が当てられる。

不動産の値上がりを見込んで活況だった消費を取り戻すのは簡単なことではないかもしれないが、政策のメニューは豊富だ。

人民中国インターネット版

関連文章