困難と試練を新たな発展モデルへ:「政府活動報告」を読む
上海交通大学人文学院副研究員 石田隆至=文
年始から米国が国際法を無視した侵略行為を重ねるなか、3月5日に始まる全国人民代表大会で中国はどんなビジョンを示すのか。李強総理による「政府活動報告」は、「2025年は並大抵のものではなかった」という言葉で始まった。万感の思いが込められていると感じた。
そう言わせたものは何か。「一国主義と保護主義が突如エスカレートし、市場の期待が恒常的に大きな影響を受け続け」たという言葉は、トランプ関税による経済や貿易への試練の大きさを物語る。経済成長率も以前ほど高まらない。「国内経済が大きな転換期を迎え、深層部の構造的な問題が顕在化しつつあり、消費と投資の成長に必要な原動力が不足した」。日本のメディアは特にこの点を取り上げ、2026年の成長率目標値が下がったことで「景気減速」を印象付けようとしている。
ただ、「報告」全体のトーンから受ける印象はまったく異なる。内外でこれだけ難局に直面している割に、内容には混乱を感じない。堅実な発展が持続したことが報告され、第15次五カ年計画(2026~30年)などに基づく今年の政策も具体的で充実している。むしろ、この困難を克服する道筋を見出していることへの落ち着き、あるいは確信さえ伝わってくる。事実、李強総理は「この一年、わが国の経済は圧力に負けず発展しつつ、高い強靭性をみせた」と述べ、政府活動の基調は「安定を保ちつつ前進を求める」ことにあると宣言した。
中国で暮らす中で感じていることも同様だ。「景気が悪い」と口にする市民がいるのは確かで、李強総理も「経済の安定化促進」のための「効果的なマクロ政策」を論じた。ただ、実態は、物質的な豊かさがある程度実現したことで、価値観やライフスタイルに質的な変化が生じているといった方が近い。市民や海外メディアは変化する現実をどう捉えればよいか、うまく整理できていないのではないか。李強総理が「深層部の構造的な問題」と呼んだのがそれだ。
耐久消費財が民衆の間に相当程度行き渡ったことで、これまでの大量生産・大量消費の経済構造では成長が続かなくなってきた。これは、日本を含めた西側先進国が1970年代以降に辿った道と重なる。高度成長を実現した後は、持続的な安定成長への転換が課題となる。
2020年代にこの課題に直面した中国と違って、先進国は安定成長モデルへの構造転換に専念してきた。1970年代にも環境保護の必要性は指摘されていたが、経済成長を優先させてきた。少子高齢化、金融経済の肥大やグローバル化、感染症問題は90年代後半以降に問題化した。何より、関税の濫用や内政干渉によって発展を阻害されることはなかった。
現在の中国は、途上国でありながらこうした負荷をすべて背負いつつ、その解決を発展に繋げようとさえしている。生態系も福祉も多国間主義も犠牲にしない。環境技術の開発が最たる例だ。イノベーションの加速によって「従来型産業の最適化・高度化」を図り、「新興産業と未来産業を育成」することで、持続的な成長を実現しようと挑戦を重ねている。制裁や干渉もあるなかで試行錯誤を経て、「高い強靭性」を発揮してきた。対立を作り出す政府があっても、テスラやトヨタは中国のイノベーションとの提携なしに事業が成り立たない。景気が減速しているというより、構造変動への対応に見合う堅実な成長率目標の設定だと捉える必要があるだろう。
新たな発展モデルの構築という課題に直面しているのは中国だけではない。その成果と模索を先進諸国はじめ各国と共有し、難局を共に乗り越えようと「報告」は呼びかけているのではないか。無法行為でグローバルサウスや国内の弱者を犠牲にした「発展」モデルに決別するための「青写真はすでに出来上がって」いるという言葉に、明るさを感じた。
人民中国インターネット版