「政府活動報告」を科学技術の視点から読む

2026-03-07 15:29:00

科学ジャーナリスト 倉澤治雄 

現代は科学技術パラダイムシフトの時代である。人工知能(AI)、量子科学、ロボティクス、半導体から宇宙開発まで、猛烈なスピードでブレークスルーが達成されている。「政府活動報告2026」から重要な数字を拾っておくと、まず第145カ年計画の5年間で、研究開発(R&D)費が年平均10%の増加だったことに驚かされる。これによりOECD購買力平価換算で見ると、25年には民間を含めた研究開発費総額が米国と並んだ可能性がある。 

米国の輸出規制で苦しんだ半導体については、伸び率が10.9%と、中国がこの分野で一定のブレークスルーを達成したことが見て取れる。また産業用ロボットの生産台数が28%と大幅な増加となったほか、新エネルギー車の生産台数が1600万台を超えた。第155カ年計画(202630年)ではR&D費の伸び率が年平均7%と設定されており、中国は引き続き科学技術の振興によってイノベーションを達成する戦略である。 

26年の科学技術重点分野としては「人工知能」「バイオ医療」「ロボット」「量子科学」が挙げられた。研究力の米中比較で中国は依然、「バイオ医療」分野で米国に劣後している。しかし第二次トランプ政権が世界保健機構(WHO)からの脱退や米国立衛生研究所(NIH)の規模縮小に踏み切ったことから、中国にとってはチャンスが広がることになる。 

育成すべき「新興基幹産業」としては「集積回路」「航空宇宙」「バイオ医療」「低空経済」が挙げられたほか、「未来産業」として「未来エネルギー」「具現化(エンボディド)AI」「BMI」「6G」が挙げられた。ICTAIの普及で、電力をはじめとする「未来エネルギー」の創出は必須である。今日のようなエネルギー大量消費型の「AI化」「インテリジェント化」は到底サステイナブルではない。大量のエネルギーを生み出す新しい技術を創出するか、電力の大量消費を回避する「AI化」の道を模索する以外にない。おそらく「未来エネルギー」としては核融合などのハードルの高いエネルギーが想定されているだろう。 

「具現化AI」は大規模言語モデルとロボティクスを融合させて、人間に近いAIエージェントを創出する試みである。大量のデータを保有する中国が最も強みを持つ分野である。 

さらに驚いたのは「BMI」が取り上げられたことである。「BMI」は人間の脳にチップを埋め込んだり、ヘアバンドのように電極を装着して人間の「睡眠」「精神状態」「記憶」などをコントロールする技術である。「ブレイン・コンピュータ・インターフェイス(BCI)」とも呼ばれる。現在世界で実証試験が行われており、米イーロン・マスクの「ニューラリンク」や中国発の「強能科技(BrainCo)」などのベンチャー企業が注目を集めている。すでに「脳」を超えて、「心」と機械を繋ぐ、「マインド・マシン・インターフェイス(MMI)」の概念も提示されている。 

通信は6Gの時代に入る。中国は世界で最も5Gの普及が進んでおり、6Gでも先頭を切って導入が進められるだろう。ただし宇宙を利用した衛星コンステレーションではスペースXなど米国の民間企業に後れを取っている。「政府活動報告」では「衛星インターネットを急いで発展させる」とキャッチアップに意欲を見せる。こうした新しい産業の育成を図るため、「AIオープンソース・コミュニティ」「超大規模コンピューティング・クラスター」「コンピューティングパワー・コーディネーション」などのインフラ整備を行うとしている。 

全体を通じて「新な質の生産力」「クラウド」「スマート」「インテリジェント」などのキーワードが強調されていることが分かる。また「AI+」の深化がうたわれており、中国は引き続きAIをベースに産業の高度化を図り、自立自強による「国内大循環」を目指すことになると思われる。 

人民中国インターネット版 

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