中国古代飲食文化展 食文化で味わう伝統と生活

2022-08-05 16:41:24

曹夢玥=文

『漢書・伝』では、「王者 以民為天,而民以食為天(王は民をもって天となし、民は食をもって天となす)」と説かれる。農耕文明時代の中国人は「食」に対してこだわりを極めていた。一杯のご飯、一品の料理、一つぼの酒、一杯のお茶……ありふれた一日三食の中に、人々の生活の知恵が含まれており、さらに数千年にわたって積み重ねられてきた中華民族の文化の趣が反映されている。食事とは、お腹を満たし生存していくためだけではなく、ある種の生活様式の表れでもある。 

数千年にわたる歴史の中で変遷してきた中国古代の食文化は、重厚な趣があり、巧みを凝らした食器と独自のシステムを持つ調理法、複雑な典籍制度が形成された。 

そのような中国古代の食文化の豊かな内容を展示するため、中国国家博物館ではこのほど、中国古代飲食の発展・変遷を軸とした「中国古代飲食文化展」を開催した。 

  

展示された酒器の一部(写真提供・中国国家博物館) 

  

食の器 食の美 

中国国家博物館北11展示ホールに入ると、天井に書かれたさまざまな漢字の「食」が人目を引く。「食」という文字を始まりに、中国古代食文化の「絵巻」が、徐々に広がっていく。 

今回の「中国古代飲食文化展」は、「食は八方から」「茶の趣と酒の香り」「美しき器」「鼎から見る変遷」「食から始まった礼法」の5エリアからなり、文化財240点余りを展示し、食材・食器・技術・礼法などの面から中国古代食文化の歴史的変遷を全面的に展示し、古代労働者の日常をリアルに再現し、暖衣飽食の満ち足りた生活に対する人々の憧れを表している。 

「食は八方から」エリアでは、新石器時代の良渚古城莫角山遺跡で発掘された炭化穀物が中華民族農耕文明の起源を語っている。中国は粟・稲という二つの主な農作物の発祥地。良渚古城の中心である莫角山の辺りでは200トン近くもの炭化穀物が発掘された。このことから、良渚文化(紀元前3300年頃~前2200年頃)の稲作農業の発達がうかがえる。また、同じく新石器時代の裴李崗文化遺跡で発掘された石磨棒と石磨盤は、中原地域に住む古代の人々の手慣れた石器加工技術と発達した農業文明を証明している。 

「茶の趣と酒の香り」エリアでは、多様で美しい茶・酒の器具が展示され、茶と酒に関する悠久の歴史を語っている。中華の食文化の輝く宝として、茶と酒は、古代の人々の食文化により芸術的な味わいを与えた。「酒は豪士の如く、茶は隠者の如き」ということわざのように、茶と酒は人々に味覚の楽しみと神経の刺激を与えると同時に、精神的な需要を満足させる。展示された黒陶杯や青銅(温酒器の一種)、青銅(温酒器の一種)、青花盞(茶を飲む際に使う杯)などの文化財は、茶文化と酒文化それぞれの歴史を語っている。 

食器は中国古代食文化の重要な一部だ。歴代の食器は、実用を重んじると同時に、人々の美意識を反映している。素朴な彩文土器、清雅な磁器、荘厳な銅器、洗練された漆器、華麗な金銀器、つやのある玉器など、「美しき器」エリアでは、さまざまな食器が来場者の目を楽しませると同時に、中華文明の発展の歩みを物語っている。 

  

清の時代(1616~1911年)の料理を詰めるひょうたん型容器(写真提供・中国国家博物館) 

  

食の技 食の礼 

煎(少量の油を入れて焼く)、炒(炒める)、炸(大量の油で揚げる)、蒸(蒸す)、煮(煮る)、炖(とろ火で煮詰める)、焗(蒸し焼きにする)、焼(炒めてから調味料やスープを入れて煮込む)……中国料理は調理法の多さで世界的に知られている。食べ物の調理は、火の使用と密接に関わる。原始時代の人々は、火の使用によって、食物を生で食べることから加熱して食べるようになった。それは、人類発展史上の重要な一里塚であり、人類の食文化の始まりとも言えよう。釜・(火をたいて食物を煮るための青銅器)・(煮炊きのための土器または青銅器)・(米などを蒸すための土器)などの最初に発明された調理器具は、蒸・煮が中華民族の数千年にわたる調理法の礎であることを証明している。周の時代(紀元前1046年~前256年)に形成された「(8種類の貴重な食材の調理法)」は、調理が独特な飲食芸術となったことを意味する。また、漢の時代(紀元前206年~紀元後220年)は中華飲食文化発展史上における重要な時期であり、食糧の貯蔵や加工、主食の作り方、おかずの調理法、飲食習慣などさまざまな面で、後の2000年余りの基本的な飲食の構造を固めた。また、「鼎から見る変遷」エリアでは、食材の加工・調理に使う器具や調理技術、飲食に関わる著書や文献の展示によって、中華の飲食技法の変遷と発展が系統的に説明され、食の技に関する古代の人々の知恵と科学について知ることができる。 

『礼記・礼運第九』では「夫礼之初、始於飲食」と礼法の起源が説かれている。中国古代の文明を象徴する「礼」は、飲食から始まった。早くも秦代以前(紀元前221年以前)に飲食の礼法について詳しく記述した典籍があり、その中の多くの礼法は後世に深い影響を与えた。「食から始まった礼法」エリアでは、さまざまな文化財と歴史のシーンを再現した展示によって、古代の飲食の中の「礼」の美しさが示されている。そのうち、鴻門の会(紀元前206年、楚の項羽と漢の劉邦の会見)の展示では、古代の宴会の席次が再現され、東を尊ぶという中国古代の伝統が反映されている。また、「以楽侑食(音楽で食事に興を添える)」も中国古代食文化の特色だ。諸侯や貴族は食事をするとき、音楽や歌、踊りで興を添え、気分を盛り上げ、食欲をそそり、威厳を見せる風習があった。同展では、各種の楽俑や典籍によって、「鐘鳴鼎食(楽器を演奏し鼎を並べて食事をする)」という飲食の礼法が展示された。 

このほか、同展の一部の展示内容はオンラインでも見られ、自宅で古来の食文化の独特な魅力を味わうことができる。 

  

鴻門の会の様子を再現した展示の一部(写真提供・中国国家博物館) 

 

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