多様化で博物館人気上昇中

2023-07-21 18:28:00

続昕宇=文

孫昌武=文・写真提供

北京の中国国家博物館(以下、国博)が昨年、創立110周年を迎えた。その記念イベントの一つ「イタリアの源――古代ローマ文明展」には、紀元前4世紀から紀元1世紀までのイタリア半島の波乱万丈の歴史をひと目見ようと、多くの観覧客が訪れた。 

「コロナ感染症が発生してから、国博が初めて開催した国際展覧会だと聞いたので、ぜひ見たいと思っていました。もともと国慶節の連休に来るつもりでしたが、チケットがなかなか取れず、平日に休みを取って見にきました」と話すのは、デザイン関係の仕事をしている30代女性の劉さんだ。会場では、多くの人が解説員を取り巻いて説明に耳を傾け、展示品に顔を近づけ、質問をしていた。この展覧会は多くの観客がネットで「おすすめ」しており、「いつ来ても新しい発見があって、毎月1回は国博に行く価値がある」と話すネットユーザーもいる。 

これは国博だけではない。本誌が昨年取り上げた「文創(文化クリエーティブ)ブーム、考古学ブーム」に続き、近年は中国の博物館にも徐々に「ブーム」が来ている。旅行予約サイト「トリップドットコム」によると、昨年1~5月、中国国内で最も人気のある観光地トップ10で、博物館・展示館が4位にランクインした。同サイトで観光地のチケットを予約した人の10人に1人が博物館を選んでおり、「文博(文化財と博物館)ツアー」が次第に人気の外出先となっている。特に、故宮博物院や広漢三星堆博物館(四川省広漢市)、秦始皇兵馬俑博物館(西安)、河南博物院(鄭州)、金沙遺跡博物館(成都)は、インフルエンサーの人気観光スポットだ。 

中国の博物館は、ますます現代的で「個性」的になり、誰もが気軽に行ける場所となっている。これには政策的なサポートがあるだけでなく、人々の精神・文化面での生活をもっと豊かにしたいというニーズと、博物館自身の努力も欠かせない。  


明代・永楽帝の時代の文化財などを華やかなイルミネーションで現代的に紹介した南京城壁博物館の大報恩寺塔関連展示会(6月11日、vcg)

無料開放支援で館数増加 

国家文物局などが2008年に『全国の博物館・記念館の無料開放に関する通知』を発表して以来、中国の省・市レベルの総合博物館は、大多数が無料観覧制度を相次いで導入している。参観希望者は予約さえすれば入館でき、一部の特別展を除いて入場料を払ってチケットを買う必要がない。21年末までに、中国の博物館の90%が無料開放を実現した。 

この政策の実施には、政府と地方レベルの財政、税制などの面での後押しが密接に関わっている。政府の財政では特別資金を設立し、地方の博物館の無料開放に必要な資金を重点的に補助し、ディスプレーの改善や臨時展示会の開催を奨励し、主な博物館のサービスアップを支援。財政部(日本の省に相当)は昨年5月、同年の博物館・記念館の無料開放補助金予算を34億4000万元とした。各レベルの財政部門も博物館・記念館の無料開放関連経費を予算に盛り込んだ。 

政府はまた、関連する税の優遇政策を次々に打ち出した。これにより、条件を満たす博物館は営業税免除の優遇を受けられる他、企業や社会団体、市民個人の博物館事業に対する支援を奨励し、人々の資金や文化財を寄付する情熱をかきたて、その資金源を広げ、博物館の持続可能な発展を促進した。 

このような政策に支えられ、中国の博物館数・年間開催展覧会数・年間入場者数は、10年間でそれぞれ60%、144%、119%増加を達成した。文化・観光部の統計によると、21年末までで、中国の博物館の数は12年の3069館から5772館に増えた。新型コロナの影響にもかかわらず、21年には全国の博物館に延べ7億7900万人が来場。オンラインで3000回余りの展示会や1万回余りの教育活動も企画され、ネットの総ページビューは41億回を超えた。 

さらに便利なことには、一部の博物館は入館時間を延長することにより「昼間しか展示物を見られない」という制約を打ち破り、夜間の博物館が都市のナイトライフの新たなランドマークとなっている。昨年6月、浙江自然博物院が企画した「24時間博物館」が杭州市で開館した。同館の開放は、平日午前10時から深夜0時までで、土・日は24時間開放だ。これは中国の国立博物館としては初めてだ。また、西安鐘鼓楼博物館、景徳鎮御窯博物館、北京古代建築博物館などはユニークなナイトイベントやナイトツアーを打ち出し、常に人々の多様なニーズに応えている。 

「その町を知るには、まず地元の博物館から始めます」と話すのは南昌市に住む周玲さんだ。彼女は江西省博物館のリピーターで、博物館が夜間開放という形で有名になることは、トレンドに乗り、近隣住民たちのナイトライフを豊かにし、観光客にも変わった文化・観光ツアー体験をもたらしていると考える。 

ハイテクで展示物を活性化 

政策的サポートを後押しに、博物館自身も積極的に変革し、人々の高まる文化的ニーズに応え、文化的な消費のアップグレードに対応する新たな動きを見せている。多くの博物館は「文化財を生かす」面で工夫を凝らしていて、人工知能(AI)、3Dモデリング、VR(仮想空間)パノラマ技術などの新しい技術を活用して「クラウドショー」「クラウド鑑覧」を実現するなど、入場者に多様な鑑賞体験を提供し、博物館をより身近なものにしている。 

江蘇省揚州市にある中国大運河博物館は、多くの観覧客が中国版インスタグラムの「小紅書」(RED)で「いいね」を押すなど、まさに「開館即え」となっている。同館は5G(第5世代移動通信システム)技術を一足早く導入し、展示室には没入型の体験空間である「5G+VR720度ライブ大運河」を設け、北京と杭州を結ぶ京杭大運河の美しさをパノラマで紹介している。両親と一緒に展示を見にきたという参観客は、「こんな博物館は初めて見ました。頭上のLEDスクリーンが変化して、昼夜が巡る効果を演出しています。パビリオン全体で往時の酒屋や手作り工房、米屋などをそのまま再現しており、本当にお菓子が買える店も何軒かあって、まさに立体的な歴史書と言えるほど没頭できます。一番のサプライズは3号館の出口です。ここでは揚州古運河に雷が落ちて雨が降る光景が作られていました。ゴロゴロと雷が鳴った後で本当に雨が軒先から降ってきたんです。本当にすごい」とその驚きを語った。また、「来たかいがありました」と体験をつづった女性ネットユーザーもいる。「ここはとても素晴らしい科学技術の展示館です。中でも裸眼の3Dによる臨場感は特別です。運河を行き交う船の船首に立つと、揚州の四季折々の風景を味わえ、本当に船が動いているように感じられます。館内には簡単な密室脱出(ゲーム)もあって、とっても面白いです」 

博物館の中には、デジタル博物館をオープンし、入場者の見学の利便性を高めるとともに、文化財の保護と継承に新たな道を開いたところもある。敦煌研究院(甘粛省酒泉市)の「デジタル敦煌」プロジェクトは、リモートセンシング・マッピング(遠隔操作による地図化)と傾斜地撮影を中心とする大遺跡の3次元再建技術などのハイテクにより、敦煌石窟の2次元情報と3次元データの収集と加工を実現し、完全な石窟のデジタルアーカイブを作って永久保存している。 

また、同院の「デジタル蔵経洞」プロジェクトは、この洞窟の壁画をミリメートル単位の精度で1対1で再現し、オンラインでデジタル蔵経洞を構築。物理的な壁画をデジタルで忠実に再現し、往時の蔵経洞の盛況ぶりを再現している。 

ここ数年、総合型博物館の他にも、テーマ博物館や考古学遺跡博物館、業種博物館などさまざまな博物館が現れている。また多くの地方で、現地の文化的特色と都市の歴史を融合させた個性的な博物館も登場した。「胡同(横丁)一つで中国史の半分を物語る」と言われる史家胡同は、北京で最も有名な胡同で、ここにある史家胡同博物館は北京初の胡同博物館だ。展示品には、家庭で使われていたかごやザルから、現代の生活からほとんど姿を消したバスの切符などがあり、昔の胡同生活をそのまま再現している。また、特に1950~60年代と70~80年代の北京の一般的な家庭の内部を再現した部屋も二つ作られ、当時の北京人の生活と胡同文化を生き生きと表している。 

胡同のほかに、50〜60年代に建てられた廃工場を改造して作られた成都工業文明博物館も注目に値する。ここでは現在、工業建物群が博物館に変身し、参観者は「工場エリア」で、50~80年代の工業化の雰囲気と、電子工業に代表される成都の工業の歴史を感じることができる。 


西安博物院では長安を舞台とした展覧会が開かれ、美しい唐代風の宮廷女官に観客が目を奪われていた(5月22日、vcg)

商品開発や体験教室も 

習近平国家主席は、国博のベテラン専門家から寄せられた手紙の返事で、「博物館は人類の文明を保護し継承する重要な場所だ」と指摘した。文化的遺産の集積地の一つである博物館は、豊富な文化財を所蔵し、展示も通常はモノによって構成される。だが博物館の展示は単なる置物ではなく、入念に選択し合理的に陳列することで歴史を語っている。これによって、より生き生きと直感的に現代における伝統の理解度を高めている。そのような意味で、文化財関連クリエーティブ商品の開発に向けた博物館の試みは、成功した模索と言えるだろう。 

昨年、第8回中国国際サービス貿易交易会と第5回中国国際輸入博覧会が開かれたが、両会場とも文化財・博物館と文化財関連のクリエーティブ商品エリアはいつも大人気スポットの一つだった。多くの博物館がまとまって参加しており、こうしたブースには人波が押し寄せていた。 

こうした商品は、文化クリエーティブ・バージョン1・0時代の冷蔵庫にくっ付けるマグネットやしおり、Tシャツなど実用性に優れた日用品から、同バージョン2・0時代には清朝の高官が身に付けていた首飾りのようなネックレス式イヤホンやブック型灯籠など、さまざまな場面で使える新製品・道具にまで広がった。さらに、同バージョン3・0時代の中国風ボードゲームや謎解き本、マーダーミステリー(ゲーム)などインタラクティブな製品へと変化している。これは、博物館が現在の文化クリエーティブブームと結び付け、文化財を「食べても使っても、着ても遊べる」ものにし、より多くの人に文化財や伝統文化に強い興味を持ってもらうようにしたためだ。昨年、独身の日「双十一」(11月11日)のセール期間中、文化クリエーティブ商品の売り上げは伸び続け、各地の博物館も再び多種多様な文化クリエーティブ商品で固定ファン層を超える人気を博した。 

博物館は、有形の文化財を誰でも簡単に目にするようにしただけでなく、無形文化財の伝承においても重要な役割を果たしている。 

中国では、ほとんどの省・直轄市に名酒がある――貴州の、四川の五糧液、北京の……そして山西省と言えば、やはり汾酒だ。この汾酒は6000年の歴史を持ち、第1期国家級無形文化遺産リストに登録された。同省汾陽市には、「中国初の酒類博物館」と呼ばれる汾酒博物館がある。無形文化財の保護と継承を強化するため、同館では明清時代の汾酒の酒造所を模した工場を作り、生産工程と醸造器具は全て明清時代の手作業を忠実に復元し、汾酒の伝統的な醸造技術と各作業の場面を再現している。 

このほかに、有形文化財と無形文化遺産を展示する「双博館」として、南京民俗(無形文化遺産)博物館は、無形文化遺産継承者への支援を強化したり、無形文化遺産と実生活を結び付けたりする方法で、その保護と継承に大きな成果を上げている。同館は一年を通して無形文化遺産伝承者のためのオープンスタジオを運営しており、無料で場所を提供して無形文化遺産の継承活動を後押しし、参加者と対面形式で無形文化遺産の技を伝えている。同館内では「親子教室」も開設されており、親子で実際に作って無形文化遺産を学び、身近に感じることができるだけでなく、作った作品を家に持ち帰ることにより、「博物館を家に持ち帰る」ことを実現した。    

広漢三星堆博物館の記念品ショップは、有名な人頭像などの文化クリエーティブ商品を買い求める観光客であふれかえった(2022年10月2日、vcg)

関連文章