北京での部屋探し住宅難を実感

2022-08-30 11:56:07

馬場公彦=文

6月の中国は大学受験と卒業の時節。北京大学でも18日、「五四フィールド」でまずは全校の大学院卒業生を集めて盛大な式典が行われた。コロナの都合で学校を去る教え子たちの雄姿を見送ることができなかったのは残念だ。というのは、私にとってもこの6月は北大での3年の任期が切れる卒業の時だったからである。 

とはいえ、感傷に浸っている余裕はない。次の職場を探し、採用されたら北大の雇用期限終了の手続きと雇用先の新規雇用手続き、地元の人材発展センターでの外国人就労許可証の再発行、入管でのビザ延長申請手続きなど、な作業を6月末の就労ビザ終了前までに完遂しなければいけない。 

今回は、ビザ延長のゴールに到達する前に、転任先では宿舎の割り当てがないため、転居先を決めるというもう一つの難関が割り込んできた。定住先が決まらなければビザは下りない。何より7月に入ると今の北京大学の宿舎にはいられなくなる。北京市内各地に封鎖地区や防疫強化地区が発生していたさなかの6月6日、北京の患者発生数が下降しレストランでの店内飲食が再開されるなど、「解封」となった。このわずかな晴れ間を逃がさず、その2日後、北京の友人の援助を借りて、不動産仲介業者の立ち合いで、部屋探しに繰り出した。 

1日で市内7カ所の物件の下見、決定、賃貸契約、1年分の賃貸料ほか諸費用の払い込みなど、一切を済ませた。ビザの期限切れまで後がない上に、新規患者の増加次第ではいつまた防疫措置が強化されるやもしれず、二度と部屋探しのチャンスは巡ってこないかもしれないからである。おかげで中国都市部の住宅事情について、実地体験をする絶好の機会ともなった。 

北京では中心部に一部残る四合院のような伝統家屋を除けば、全てがマンションで、日本のような戸建てと集合住宅の区別はない。北京の場合、市内を巡る6本の環状線の内側になるほど市街地に近接するため地価が高い。ここ海淀区は人口密集地ではないが高価格帯なのは、学園地区で有名大学の附属小中学校が集中しているからで、子どもの教育のためにわざわざ転居してくる家庭も多い。 

分譲の場合、価格は1平方㍍当たりの単価で表示される。私の選んだマンションの分譲価格は100平方㍍だと今の為替レートで2億円近くになる。普通のサラリーマンだととても手が出ない。賃貸だと60平方㍍ほどで7500元(15万円)だから、東京都心部の価格相場とさほど変わらない。 

日本での家賃価格は築年数とも相関関係があるが、中国では物件情報に築年数が表示されていないことが多い。下見をした中で、決定したマンションにほど近いところの物件は、あまりにみすぼらしいのに価格は変わらない。有名中学に隣接しているからだ。中国は伝統的に事業単位ごとに宿舎が割り当てられる単位社会であったが、いまは自由に住居を選べるようになり、その物件はかつての宿舎が賃貸物件に変わったのである。老朽化が進み、エレベーターもなく、窓には防犯用の鉄格子がはめられてある。ただ間取りが家族用だから、子どものいる家庭だけでなく、高くてとても1人では住めないルームシェアの学生や若い社員のほか、出稼ぎ労働者の需要がある。 

賃貸の場合、日本と違って不動産屋が所有する物件は少なく、家主が資産運用のために買い上げた部屋を提供する場合が多い。家主・借主・仲介業者の三者で交わした今回の賃貸契約書の条項のなかに、居住面積は1人当たり5平方㍍以上であること、キッチン・バストイレ・ベランダ・地下貯蔵室などには居住してはならない、などの文言が明記されているのは、ルームシェアの習慣が普及している中国ならではだ。そのほか、賃貸では敷金はあるが礼金はないため、日本よりは比較的転居しやすい。さらに電化製品や空調や家具・ベッド・ソファなど、生活に必要なものは一通りはあらかじめそろっている場合が多い。 

契約が成立したら、日本の場合は地元の役所に住民登録に行くが、中国では地元の派出所で居住登録する。単位社会の名残か、マンションごとにコミュニティーが構成され、社区居委会(居民委員会)への登録も必要になる。北京で毎日行われるPCR検査施設も社区ごとに設置され実施されている。 


転居先のマンション。中庭や遊具が設けられている 

 

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