市内旅行は電動車に乗って

2022-10-01 17:14:07

馬場公彦=文

北京の新型コロナ感染者は5月の小爆発、6月の小康状態を経て、7月下旬に入りかなり沈静化してきた。昨年の7月に西安と泰山を旅行して以来、ここ1年、北京から外に出たことはない。 

大学は夏休みに入り、旅行計画を立てようとはするのだが、万一旅先で感染者が出れば北京に戻れなくなる。また、健康コードをスキャンして、「弾窗(ポップアップ通知)」が出現してくる恐怖がある。コロナリスク地区に足を踏み入れたり濃厚接触の疑いがあると、前触れもなしに出てくる。そうなると弾窗が消えるまで静かに隔離して待機しなければならない。 

まだしばらくは北京足止め状態が続くことを覚悟し、ならば北京市内を旅行しよう、そう思い立った。そこで電動車を購入した。日本の電動アシスト自転車に相当するが、形態も機能もスクーターに近い。ただし最高速度は25㌔以上出ないように設計されている。運転免許は不要で、価格も6~10万円ほどと安い。1回6時間程度の充電で走行距離は50~100㌔で、購入から2週間で250㌔を走破した。これまで自転車や公共交通を利用していた行動範囲は一挙に広がり、郊外へ郊外へと延び、例年を上回る酷夏の北京で早朝の涼風に吹かれて、爽快感を満喫している。 

公道でノロノロと電動車を走らせていると、北京の交通事情が体感できるようになってきた。複数車線の公道には必ず歩道の左に隣接した自転車専用レーンが、車道とほぼ同じゆったりした幅員で切ってある。 

そこに行き交う乗り物は、実ににぎやかである。自転車と電動車のうち、電動車といっても私の乗る二輪車のほかに、電動三輪車もあれば、電動四輪もある。車体の前後をフードで覆ったものもあれば、全面密封式もあり、三輪車はハコフグのようにかわいらしい。多くは子息や孫の学校や塾への送迎用である。密封式電動四輪は日本の軽自動車に近い。日本で利用者の多い軽自動車が中国では販売されていない分、電動四輪が普及していて、しかも価格は20万円程度。そのほか宅配便用や荷台を引く運搬用の電動三輪も走っている。 

北京で電動車を運転するときに必要なことは、判断力・集中力・読心術だ。北京の幹線道路は中央分離が徹底し、信号が少なく、信号の切り替え時間が長い。そのため自転車レーンでは時折逆走する自転車・電動車があり、接触を避けるために進路の選定には細心の注意が要求される。歩行者は信号を順守する人が多くなったが、自転車・電動車はまだ状況判断での自己裁量の部分が残っている。自転車レーンを走る営業車は、配達時間短縮のノルマが課せられているためか、追い越しすり抜けに注意が必要だ。しかも電動のため騒音がないのはありがたいが、音もなく忍び寄ってくる。 

日本と違う交通ルールは、自動車は赤信号で右折できることだ。そこで交差点では運転手との駆け引きが必要になる。運転席を注視し、譲られるか待機するかを瞬時に判断する。 

魯迅をなぞっていえば、「もともと地上に道はない。歩く人が多くなれば、それが道になるのだ」。公道を利用するみんなの総意で、みんなが合意する暗黙のルールができ、「公共交通」がまだ「みんなの公共」に抗えないでいる部分が、いくらか残っているのかもしれない。 

とはいえ、北京に赴任した3年前と比べれば、自動車専用の車線は秩序が保たれるようになった。クラクションへの規制があり、電動車も増えて、騒音が減ってきた。横断歩道で停車してくれる機会が増えてきた。タクシーやバスは、待ち時間がスマホや停留所に表示され、便利である。運転手のマナーも向上し、乗れば安心安全である。 

  

北京の西三環路にて 

 

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