鉄道から見えてくる中国の姿
進歩を続ける中国の高速鉄道
于文 植野さんは出張などで高速鉄道をよく利用しますよね。中国の高速鉄道について、どのような印象を持っていますか?
植野友和 一言で言うと、進歩を感じます。なぜかというと、私が最初に中国の高速鉄道に乗ったのは2010年頃なのですが、その当時は中国の駅や列車内はどこも人で大混雑していて、チケットを買うにも窓口は長蛇の列といった感じで、正直言って積極的に乗りたいとは感じませんでした。ところが、今は窓口に並ばなくても切符をオンラインで買えますし、そもそも紙の切符が廃止されて、改札でパスポートをスキャンするだけで乗れますよね。また、列車の時間がとても正確ですし、車内もきれいで、とても快適だと思います。それに、なんと言っても速いのが魅力です。
于 速さは確かに重要なポイントですよね。実は、私が人民中国雑誌社に入社したばかりの頃、初めての出張で青島市に行くのに鉄道を利用したのですが、当時は高速鉄道どころか「動車」(D列車〈動車組列車〉は、高速鉄道や改良型在来線などで運行される列車で、営業速度は時速200~250㌔。その一方、G列車〈高速動車組列車〉は高速鉄道を走行し、営業速度は時速300~350㌔に達する)もなくて、9時間もかかったんです。
植野 今なら高速鉄道を使えば3時間強で着きますから、これは本当に大きな変化ですね。
于 しかもその当時は、チケットをとるのが難しくて、席の数よりも多いチケットを販売していたので、やっとの思いで乗車券を手に入れたのに車内で9時間も立ちっぱなしだったんですよ。
植野 私はその時代の中国を知らないので想像がつかないです。今の私にとっては、中国の高速鉄道は全国各地をくまなく網羅する非常に便利な交通手段というイメージです。中国の営業距離が世界の全ての高速鉄道の総和を超えたとのニュースを見たことがありますが、まさにすさまじい進歩ですね。
于 昨年末時点で、中国の高速鉄道の営業距離はおよそ5万400㌔に達していて、これは世界全体の7割以上を占める数字なのだそうです。また、人口50万人以上の都市の97%をカバーし、1000㌔圏内を最速4時間以内で移動できるようになっています。ちなみに、1日の旅客輸送人数は最多で1600万人に達しているそうです。
植野 中国のスケールの大きさが感じられますね。中国の皆さんにとって国内移動の需要といえば、やはり春節(旧正月)の帰省が定番だと思うのですが、遠い地方から出稼ぎにきている人たちが、昔は2日や3日かけてふるさとに帰っていたのが、今では高速鉄道の発達によって、その日のうちに着くようになったといった話も聞いたことがあります。そう考えるとこれは本当に交通革命というべき劇的な変化ですね。
中国鉄道ならではの特色
于 日本の新幹線と比べると、それぞれどんな違いがあると植野さんは思いますか?
植野 新幹線ももちろん便利なのですが、ある意味成熟した交通機関といった感じで、私が子どもの頃からそれほど大きく変わっていないと思います。
于 私にとって新幹線に乗る楽しみの一つは、駅弁を食べてビールを飲みながら、ゆったりと車窓を眺めて旅を楽しむことです。日本の駅弁は種類が豊富だしおいしいし、本当に大好きです。
植野 ただ、今は中国の高速鉄道も食の面で進化していて、車内でアプリを使って出前を頼むと、途中の駅で受け取って食べられますよね。駅に着くと、駅員さんがちゃんと注文通りのものを届けてくれるんです。あれは私にとって本当に衝撃で、中国のITの応用はここまで進んでいるのかと驚きました。また、これは高速鉄道ではないですが、車内での食事というと、在来線の乗客が自宅から持ち寄ったごはんをみんなで楽しそうに食べている姿を見たことがあって、とても温もりのあるいい光景だなと感じたことがあります。
于 それは乗る列車によりますね。北京と上海をつなぐ高速鉄道の列車は「ビジネス専線」と呼ばれています。早朝、ビジネスマンたちは北京から高速鉄道に乗り込み、仕事の準備を整えて出発します。そして、昼過ぎに上海に到着し、午後は商談をこなし、夕方の列車で再び北京へ戻るんです。車内では多くの人が、せわしくメールを確認したり資料を整理したり、パワーポイントを修正したりしています。移動の速さと仕事の忙しさが相まって、見ていて息苦しささえ感じてしまうほどです。でも、それと同時に、中国の鉄道には全く異なるもう一つの光景が広がっています。地方を走る鉄道、特に「緑皮車」という名前で親しまれる鈍行列車では、中国の人々の暮らしに触れられる機会があると思います。山深い地方だと、移動が「緑皮車」頼みというところはまだまだ残っていて、そういう地方では列車の中が暮らしの場の一つになっているんですね。乗客同士でおしゃべりをしたり、持ち寄った物を交換したり、中には農作物を売る人もいたりして、その土地の人々の暮らしや息遣いが感じられるんです。
植野 なるほど。私は以前、遼寧省大連市の「中国中車」の工場で、「緑皮車」の製造や修理の模様は見たことがあるのですが、実際に乗ったことはないので、とても興味深いです。
于 また、「緑皮車」は人々の生活の足であると同時に、各地の教育や医療、生活支援も担っているんです。例えば、折り畳み式の机や300冊以上の本を備え、乗務員が朝の読書指導を行い、地元で「走る学校」として親しまれている通学列車もあれば、病院と連携して乗客に診療や血圧測定、健康相談を無料で提供する「走る病院」と呼ぶべきものもあります。そのほか、「代理購入リスト」制度を設け、列車の乗務員が地元の高齢者のために医薬品などの生活必需品を購入・配送して、山間部への物資供給ルートとして活躍している「緑皮車」もあるんですよ。
植野 鉄道というのは一般的に営利事業として運行されるものですが、中国の事例を聞いていると、公益性を非常に重視しているように感じられますね。
于 そうなんです。公益と言えば、中国にはそのものズバリ、「公益慢火車」というものがあります。日本語だと「公益スロー列車」といった意味なのですが、これは中国鉄路部門が山間部や遠隔地の住民の移動の支援や、農村振興を後押しするために運行している非営利の列車なんですよ。
植野 高齢者割引を実施している鉄道会社などは日本にもありますが、非営利の鉄道というのは聞いたことがないので、本当に驚きです。
于 これは現在、中国全土で81の往復便が運行されていて、21の省・自治区・直轄市の530以上の駅を結んでいます。また、35の少数民族地域、104の農村振興重点県・市を経由していて、最も安い運賃はわずか1元です。
植野 聞けば聞くほど、中国の鉄道が持つ特色や、その奥深さが感じられますね。現代的な駅舎や列車に象徴されるような、猛スピードで発展していく中国の高速鉄道ばかりに注目しがちですが、古き良き趣を感じさせる在来線や、人々の暮らしのさまざまな面を支えるインフラとなっている「緑皮車」のことも、ぜひ日本の皆さんに知ってほしいですし、できることなら見にきてほしいと思います。そういう意味では、中国を訪れたらまず鉄道に乗ってみるというのは、より深く中国を知り、中国の人々に親しむこと、またさまざまな角度から中国を見る上で、とてもいい方法なのかもしれませんね。
世界の懸け橋となる中国の鉄道
植野 高速鉄道は中国の発展を象徴するものの一つだと思うのですが、現在中国は鉄道システムを積極的に海外に広げていっていますよね。
于 そうなんです。ケニアやラオス、インドネシアなどで中国の高速鉄道が導入され、すでに運行しています。また、中国と欧州を結ぶ国際定期貨物列車「中欧班列」も、「一帯一路」共同建設を代表するプロジェクトの一つとして、ますます広がりを見せています。
植野 それらの取り組みは、共同発展や各国の貧困削減といった面でも大きく貢献しているのではないですか?
于 まさにその通りだと思います。中国には「要想富、先修路」という言葉があって、これは簡単に言うと、豊かになるためにはまず道を整える必要があるという意味です。
植野 つまり、交通インフラこそが発展の鍵であるという考えは、中国に古くから根付いているんですね。中国の国際協力で鉄道が重要な地位を占めている理由が分かったような気がします。
于 それに、鉄道というのは人や物を運ぶ手段ですが、それと同時に社会や経済、文化をつなぐものであり、国家間においては共に豊かになろう、共に幸せになろうという願いを実現する手段でもあります。
植野 国と国を結ぶ懸け橋としての鉄道の役割ですね。国内だけでなく、世界にも広がっていく中国の鉄道は、本当にスケールが大きいと思います。それにしても、中国の高速鉄道が営業を始めたのは確か、2008年ですよね。日本の新幹線は1964年からですから、中国の高速鉄道は圧倒的に「若い」わけです。そういう意味では、発展の余地がまだまだ大きくて、今後が楽しみです。
于 ぜひ日本の皆さんには中国を訪れて、発展目覚ましい中国の鉄道を体験してほしいと思います。また、『人民中国』来年1月号から、中国の高速鉄道のさまざまな豆知識を紹介するコラムが始まりますので、ぜひご覧いただきたいです。
植野 そちらも楽しみですね!
人民中国インターネット版