米(3)

2023-07-26 14:31:00

姚任祥=文

豊富な米種と多彩な調理法を誇る中国――。前号に引き続き、代表的な米料理を調理法別に紹介する。 

竹筒ご飯 

竹筒ご飯は、客家人(中国の黄河流域から広東広西江西福建台湾などに移住した人々)が始めた野外での煮炊きメニューで、米さえあれば、他の煮炊きする道具はその場で調達することができる。 

竹筒ご飯は竹筒を道具として使う。竹の胴体を切って「窓」を開け、ここから米を6~7分目まで入れて水を注ぎ、植物の葉で「窓」をふさぐ。地面に竹筒を傾けて置ける小さな穴を掘り、葉でふさいだ方を上にして竹筒を穴に入れる。続いて竹筒の上から薄く土をかぶせ、その周りに木の枝などを積んでまきの代わりにし、火をつけ炊き始める。煙が出てきたら、竹筒を180度回して炊き続ける。煙が出なくなったら、ご飯が炊けた合図だ。火を消して穴から竹筒を取り出し、縦に切り開く。湯気の中から竹と米の香り、お焦げの香り、それに大地の香りが混じった熱々のご飯のお目見えだ。 

このように炊いたご飯は電子炊飯ジャーで炊いたものよりおいしく、悪くなりにくいと言われている。最も環境に優しく、食材本来の味を引き出すことのできる調理法ともいえるだろう。今では、こうしたアウトドア料理はレストランのメニューにも登場。伝統的な要素を保ちながらも竹筒ご飯にさまざまな具材を加えて、白米の素朴なおいしさに豊かなバリエーションをもたらしている。


肉でんぶなど中身がたくさん詰まった中華風おにぎり

粢飯(おにぎり) 

中華風おにぎりは、江蘇浙江地方の人々が好む朝食の一つだ。一般的な朝食店では、もち米とうるち米を一定の割合で混ぜて使う。ご飯を蒸す前にまず生米を十数時間水に浸す。こだわりのある店では、その米を木桶に入れ、木桶ごと水を張った鍋の中に置いて蒸す。そして、ご飯に少し芯が残るうちに火を止め、ご飯が熱いうちに具材を包み込む。甘口好きの人ならご飯を少なめに油条(中華式揚げパン)と砂糖を包み、しょっぱい味が好きなら油条や肉でんぶ、刻み切干大根などを包む。 

自宅でおにぎりを作るときは、長粒種や丸い粒のもち米を使うことが多い。前の日に残ったご飯をおにぎりにすることもよくある。もち米を炊くときは水を少なめにする。そうすると、ご飯により粘り気が出てくる。事前に刻んだ切干大根を五香粉(混合香辛料)やコショウなどで炒めておくと香りが一層よくなる。また、ザーサイや酢漬け大根、肉でんぶ、ゴマなども伝統的な中華おにぎりの具材だ。 

おにぎりを包むときは、四角い布をビニール袋の中に敷いて使う。まずご飯を平らに広げてから他の具材を乗せる。続いて油条を真ん中に置き、均等に力を入れて包んでいく。同じようなやり方で、前の晩の残ったご飯とおかずをおにぎりにして笹の葉で包むと、おいしくて見栄えも良い軽食になる。 

甘酒 

甘酒は他の料理法と比べ、作り方の難易度が高い。まず約2の丸い粒のもち米を用意し、一晩水に浸した後、水気を切ってから鍋に入れて蒸す。出来上がったご飯に冷水をかけたり、ほぐし広げたりして、だまにならないようにする。このもち米の分量は、市販されている酒かす1個分ぐらいだ。 

酒かすを粉末状にほぐし、ご飯にまんべんなく混ぜ合わせる。かめに入れたら、茶碗を押し当てて真ん中にくぼみを作り、にじみ出る米汁がそこにたまるようにする。ふたはあまりきつく閉めず、発酵させるときは室温を摂氏2528度に保ち、かめを動かさないようにする。発酵する過程で「毛」が生えてくるが、その毛が長ければ長いほど良いという。そして3、4日後、もろみが出てくると、甘酒の完成だ。 


もち米を蒸す湯気が立ち上る中、甘酒を作る農民。この村のあちこちで濃厚な甘酒の香りが漂う(江蘇省無錫市で、vcg)

昔、上海人が甘酒を作るときは、温度を一定に保つために布団をかめにかぶせて「毛」が長く生えるようにしていた、と母は話していた。だから上海人は、着込み過ぎて汗をかいている人を、「この人は甘酒を作っている」と形容したそうだ。 

台湾の有名な健康学者で、甘酒のブランドマネージャーでもある咏涵さんから甘酒の作り方を教わったとき、さん夫婦は、宝石の重さを量るのに使う精密な電子はかりでこうじの重さを量っていた。その横でさんのお父さんは、少し欠けた小さな銅のはかりを取り出して私に見せ、強い古里なまりの口調で台湾で甘酒作りを始めた頃の話をしてくれた……。 

さんのお父さんは、1949年に湖南省の田舎から台湾に移住した。それからずっと古里の甘酒の味が恋しくてたまらなかった。奥さんは台湾出身なので、夫が一体何を食べたいのかどうしても分からなかった。 

その後、さんのお父さんは図書館で明朝の科学者宋応星が書いた『天工開物』を借り、その中国最古の「技術百科全書」に伝統的な甘酒の作り方を見つけたのだった。そこで彼は、本に書かれた通りのやり方で試しに甘酒の作り方を研究し始めた。初めはこうじを正確に量る道具さえなかったので、当時の台北駅近くで廃材を探しては自分で小さなはかりを作った。 

ところが、そうして出来上がった甘酒は、どうしても古里のものほどおいしくなかった。それでも、近くに住む同郷の人は古里の味がすると言い、なるべく多く作るよう勧めた。その甘酒は、台湾に移住した老兵たちの郷愁を慰める食べ物になっていたからだ。 

こうしてさんのお父さんは甘酒を作り続け、台湾の奥さんもその作り方を覚え、次第に自社ブランドを確立していった。今では娘さんが後継者となり、経営のやり方も大きく進歩したが、当時の小さな銅のはかりは今もあり、どんなに精密な電子はかりよりも使いやすいそうだ。 

さんのお父さんは、1987年に大陸への親族訪問が開放されてから湖南の古里に帰った。そして台湾に戻るときに姉から渡されたのは、かめに入った、50年以上も思い続けてきたあの味の酒かすだった。 

甘酒は善玉菌が豊富で、人体に吸収されやすく、栄養豊富な健康食品だ。良い甘酒は酒の香りがするが鼻を突くことはなく、苦味はない。食べると甘く感じ、後味は甘酸っぱい。発酵がうまくいかなかった甘酒は酸味と苦味がきつい。甘酒は溶き卵やリュウガン、ショウガ、湯円(あん入り白玉団子)などと相性が良いが、ゆでる時間は短めに。多くの地方で、女性が産後に甘酒を飲む習わしがある。また、美容のためにフェイスパックとして使うこともある。 

甘酒のアルコール分は高くないが、お酒に弱い人は要注意だ。あるとき、夜中にお腹を空かせた母が夜食を作ろうとした。ちょうど甘酒が少し残っていたので、それを全部鍋に入れて卵と一緒に煮て食べた。その後で私もトイレに行こうと起きたら、お酒の匂いが漂ってきた。それにつられて食堂に行くと、母が顔を真っ赤にして食卓に座ってぼーっとしていた。私はびっくりし、母は気分が悪いのかと思った。ところが、実はお酒に弱い母が、甘酒は後から効くということを知らなかっただけだったのだ。 

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