感染症で広がる労働法務

2020-09-28 15:38:22

鮑栄振=文

最近、クライアントや知り合いから、「弁護士の仕事にもコロナの影響が出ていますか?」と尋ねられることが多い。

新型コロナウイルス感染症の突然の発生・拡大によって、経済は大きくダメージを受け、成長の鈍化は不可避で、一時期はマイナス成長さえ記録した。企業の生産・経営に対する打撃も大きく、多くの投資計画が取り消しや延期になり、企業のリーガルサービス(1)に対するニーズも弱まっている。

弁護士の従来の業務が多かれ少なかれ影響を受ける一方、感染症に関連する弁護士業務は大幅に増加しており、とりわけ労働法関連の仕事は激増している。感染拡大の影響で、多くの企業は就業時間の短縮や人員削減、生産停止・休業、賃金カット・減給などの対応策を講ぜざるを得ず、このため労働紛争(2)が増加しているためだ。

昨今では、国や地方政府レベルで労働関係の政策文書が大量に発表されている。国務院や人力資源・社会保障部(日本の省に相当)からこうした文書が発表されると、労働法に詳しい弁護士が次々と文章やライブ配信などを通して新たな政策や文書について解説し、普及を図るという好ましい流れができている。

労働法に精通した弁護士が専門のリーガルサービスを積極的に提供する一方、人材派遣会社(3)や研修会社も活発に動いている。人材派遣会社やテクノロジー企業、研修会社といった会社が、弁護士に代わってリーガルサービスの提供を次々と始めたことで、労働法関連のサービス市場はこれまでにない盛り上がりを見せている。

上海弁護士協会労働・社会保障業務研究委員会が今年4月に発表した「感染症拡大の労働リーガルサービスへの影響と対応に関する調査研究報告書」(以下、「報告書」)によると、弁護士のうち、同業者を主な競争相手と認識している者は34・2%だが、人材派遣会社・テクノロジー企業・研修会社といった企業を主な競争相手と認識している者は、半数近くの49・4%に上ったというから、その活況ぶりが想像できよう。

 

労働相談に新たな受け皿

「報告書」によると、現在コロナ関連の労働問題相談サービスで問い合わせが多いのは、順に①配置転換・賃金調整(4)②労働契約の解除③労働報酬の未払い④休暇・福利厚生⑤経営上の理由による人員削減――などとなっている。この調査結果は、政府機関が繰り返し強調している感染拡大期における労働契約の取り扱いに関する注意点と符合する。

労働法関係の案件を長年手掛けてきた筆者のところにも、以下のような具体的な問い合わせが頻繁に寄せられている――「業務再開が長引いた場合、会社はこの期間中の給与を支払う必要があるか?」とか「経過観察や隔離治療を受けた従業員をどう扱うか?」「感染拡大で会社が生産・経営危機に陥った場合、労働契約は解除できるか?」「従業員が感染地域へ出張した際や出退勤の途中でコロナに感染した場合、労災認定されるか?」「会社がマスクや消毒用アルコールなどの感染予防用品を提供しない場合、従業員は出勤を拒否できるか?」など。

こういった問題は、コロナによって発生した特殊で複雑なものであるため、法律・法規に明確な規定がなかったり、会社の就業規則も想定していなかったり、実務でも前例がない場合がある。このため、労働問題を扱う弁護士らは積極的に無償で対応に乗り出し、セミナーを開いて法律知識の普及に努めたり、無料相談を受けたり、ライブ配信による解説を行うなど、それぞれの方法で問題解決の糸口を提供しようとしている。

また、人材派遣会社などの関連会社も積極的に行動を起こしており、賃金や労働契約、法律に関する各種問い合わせを無償で受け付けているところも多い。

幸いなことに、関係する政府機関や最高人民法院(日本の最高裁に相当)、各地の高級人民法院(同高裁)は、労働関係に関する政策文書を相次いで発表。感染症の拡大期間における労働問題の取り扱い上の注意点について解説したり、参照すべき関連事例を発表したりしている。

 

激しい競争 弁護士が歩む道

労働法関連の法務は、深い法的な知見が必要というわけではなく、法律知識の面でも大きな価値がある業務とはいえないと考える弁護士も少なくない。だが、仕事という観点から見た場合、労働法関連の法務は非常に価値がある。というのも、労働法はいつでもニーズがある法務だからだ。経済状況が好調の時は、企業は人材募集を拡大するため、労働法関連法務の景気も良くなるし、経済が不調の時は、労働争議が増えるため、やはり労働法に詳しい弁護士のニーズが高まるという具合だ。

労働契約法が2008年に施行されると、労働法関連の法務サービス市場は爆発的な成長を遂げた。その翌年には安定成長期に入り、ここ数年その勢いは落ち着いたものの、引き続き成長を続けており、労働法関連法務を取り扱う弁護士の数は大きく増えた。そして、このたびのコロナの感染爆発によって、より多くの弁護士が取り扱うようになり、労働法関連法務の供給量は既に飽和状態、あるいは供給過剰に陥りつつある。

先述のとおり、労働法関連法務を提供しているのは、弁護士や法律事務所だけではない。各種の人材派遣会社やコンサルティング会社、研修団体や法律テクノロジー企業といった企業のほか、公的な法律支援機構やその他の関係者もそうだ。弁護士にとって、これらの競合勢力の伸長ぶりは無視できない。なぜならば、これらの企業や機構は次々に労働法関連法務の大軍に加わり、多くの弁護士や法律事務所にない強み――低コスト・ハイテクノロジーの活用・柔軟な対応・ワンストップサービス(5)などの特徴を備え、高い競争力を示しているからだ。

とはいえ、こうした会社も、クライアントが関心ある問題とは、財務や税務などを含めた人的資源に関する総合的なサービスであると認識している。このため、結局のところ、クライアントが専門性の高い法務サービスを必要とする場合、上記の会社も専門家である弁護士に協力を仰ぐことになる。

実際、次のように語る上記の会社関係者もいる。「社内に労務部を設置して法律に明るい人材を育成するにしても、多くの案件を扱って鍛錬しないと、本当に優秀な専門家を育て上げることはできない。経験の豊富さでいえば、やはり労働法関連の法務に日々携わる弁護士が一番。彼らの長年の経験に裏打ちされた的確な判断は貴重で何ものにも代えられず、AI(人工知能)やコンピューターの及ぶところではない」

激しい競争が繰り広げられる中、われわれ弁護士も、テクノロジーなどを用いた新たなサービスモデルを積極的に活用し、従来の弁護士業務との融合を図ろうとしている。このたびの感染拡大では、テクノロジーをサービスに活用したことで、弁護士の「顧客獲得力」やサービスのレベルが大きく向上したように感じる。サービスの内容や形式、マーケティング方法や報酬システムを刷新し、積極的に市場のニーズに応え、市場の変化に適応した。さらには市場の潜在的ニーズを引き出し、サービスの調整を柔軟に行った。

激しい競争に身を置くことで、われわれ労働法関連の問題を取り扱う弁護士も、労働法という専門分野だけにとどまっているのではなく、「労働法+人事・労務+財務・税務+組織変革」の四つの角度から業界の垣根を越えた協力を行ってこそ、労働法関連の法務サービスという業務の未来が開けると実感している。

 

1)リーガルサービス  法律服务

2)労働紛争  劳动纠纷

3)人材派遣会社  人力资源公司

4)配置転換・賃金調整  调岗调薪

5)ワンストップサービス  一站式服务 
関連文章