巨大EC企業の独占規制へ

2021-03-17 14:49:04

鮑栄振=文

11前日、業界に大激震

毎年11月11日は、中国EC(電子商取引)業界最大のネット通販の買い物イベント「ダブルイレブン」(1)(W11、「独身の日」に由来)の日である。2009年からスタートした同イベントは年々取引額を伸ばし、11回目を迎えた昨年は、イベント期間の取引総額(GMV)が史上最高の約8403億元というすさまじい成果を上げた。毎年大きな注目を集めてきた「W11」だが、昨年は例年と状況が違った。その前日に、IT業界をはじめ、財界や法曹界まで揺るがす「大事件」が起き、大きな反響を呼んだのである。

それは、国家市場監督管理総局が『プラットフォーム経済分野における独占禁止(2)ガイドライン(意見募集稿)』(以下、草案)を発表したことである。

草案は、ネットプラットフォーマー(巨大EC企業)に対し、法執行機関の態度が変わったというシグナルを強力に発信した。08年の「独占禁止法」施行から12年、法執行機関は巨大EC企業に対して「寛容かつ慎重」な監督・管理態度で対応してきて、明確な独禁法の制定や処罰が行われたことはなかった。

ところが政策の方向性に変化が生じ、今後は法執行にも変化が現れてくることが明らかになった。このため香港の株式市場は激しく反応し、中国の大手インターネット企業数社の株価が2日間で計約2兆元も下落した。おととしの中国の国内総生産(GDP)が約99兆元であることを考えれば、2兆元という下落幅がいかに大きいものか分かるだろう。

 

巨大ECの黄金期も終焉?

そして草案発表の翌月の12月14日、国家市場監督管理総局は巨大EC企業に対して独占禁止の第一弾を放った。同局は、ECサービス大手のアリババとテンセント、物流大手の順豊グループのそれぞれの子会社3社に対し、「申告せず事業者結合を実施」して独禁法に違反したとして、罰金50万元(約794万円)を科したと発表したのだ。

国家市場監督管理総局は記者の質問に答え、上記3社に対する罰金額は多くはないが、今後ネット分野における独禁法の管理・監督を強化するというメッセージを社会に示すものであり、一部の企業にある自社は大丈夫だと高をくくったり模様眺め(3)の心理を打ち消し、相応の抑止効果を生むだろうと語った。

さらにその10日後、国家市場監督管理総局はアリババ・グループの持株会社に対し、同社と競合するECサイトと取引しないよう出店者に迫る「二者択一」や、常連客への価格差別の「常連客いじめ」(4)といった独占的疑いの慣行があるとして、同社を独禁法違反の疑いで立件・調査を開始した。

このようにしてわずか1カ月余りで、中国のネット業界を巡るマクロ政策は大きく変化した。巨大EC企業が貪欲に拡張した黄金時代は終わり、こうした企業に対する独占禁止が強化される長い時代が来た、と声を上げる人もいる。

今回の大手EC企業に対する独占禁止行為容疑での処罰は、一般の消費者にとっても無関係ではない。前述の「申告せず事業者結合を実施」と直接的な関係はないが、「二者択一」や「常連客いじめ」は消費者の利益にも大いに関わるからだ。案の定、ネットでは大手EC企業による「常連客いじめ」の被害に遭ったという消費者の「告発」が次々と上がった。

 

「常連客いじめ」に抗議続々

この「常連客いじめ」とは、ネット上の常連客が新規客より高い利用料金を請求されること、またはECサイトのサービス運営者がそうした料金設定をすることだ。

昨年12月、「美団の会員になったら食い物にされた」(美団は出前配達サービスの最大手企業)と題する文章がSNSに投稿され、話題を呼んだ。これによると、投稿者はある日、スマートフォン(スマホ)の美団アプリでなじみの店から出前を取ろうとした。その際、会員登録を済ませた日の配達手数料が以前より高いことに気付いた。そして、会員登録をしていない別のスマホで確認したところ、同じ時間・同じ店・同じ配達先・同じ商品の注文でも、会員の方が非会員より高い配達手数料を取られることを発見した。この投稿者によると、別の店から出前を取る場合も同様で、美団がこのような小細工を弄していた(5)ことに憤りを覚え、事実を周知するために投稿したとのことであった。

この投稿で、「美団が会員を食い物に」という言葉が瞬く間にウエイボー(微博、SNS)の検索ワード人気ランキングに登場。ネットユーザーらはウエイボーやウイーチャット(微信)、知乎(Q&Aサイト)などのソーシャルメディアを通じ、美団の古い会員に対する差別的な扱い――配送料が上がったり、同じ店で出前を2、3回取ると料理の値段が上がったり、割引幅が小さくなったりするなどの状況に抗議した。また、美団だけでなく、同じ出前配達サービス大手の「ウーラマ」(餓了麽)にも同様の行為があると指摘された。

 

なぜ今、方針転換なのか

しかし、規制側は今なぜこれまでの緩い規制を一変したのか。また、今なぜ独占禁止を強化するのか――世間ではこれらの点を巡って議論が繰り広げられた。だが、その答えを見つけるのは難しいことではない。昨年12月、党中央政治局の会議で21年の経済政策が議論された際に、「独占禁止の強化と無秩序な資本拡張の防止」という方針が打ち出されたからだ。

優越的な地位にある者がその地位を利用して他者の新規市場参入を妨害し、公平な競争を阻害して消費者の利益を損ねることは、独禁法に違反する行為だ。

ここ数年、巨大EC企業は出資や合併・買収(M&A)によって人々の衣食住に関わるあらゆる分野の経済活動に参入している。巨額の資金をバックに従前のサプライチェーンを破壊して、自身を中心とした独占的なサプライチェーンを構築。その後は価格をつり上げて消費者の利益を犠牲にし、巨額の利益を得る、というのが彼らのやり方だ。

最近では、生鮮食品など人々の食卓に密接に関わる「地域コミュニティーの共同購入」事業にも数多くの巨大EC企業が進出し、この市場の支配権を巡って激しい争いを繰り広げている。

これは由々しい事態である。というのも、この共同購入は人々の日常生活で極めて重要な食料供給事業の一つであるからだ。ひとたび共同購入市場に絶対的な支配者が誕生すると、食料品の安定供給に悪影響を及ぼす可能性がある。また、食料品を扱う全国の小売業者は生計の道が絶たれることにもなりかねない。

こうしたことから、『人民日報』では、「地面を見て6ペンスを拾うだけでなく、顔を上げて月を見るようにしなければならない」と指摘。目先の利益にとらわれ、人々の暮らしを考えない巨大EC企業たちを叱咤している。

巨大EC企業は今後、どこに向かっていくのだろうか。この点について『人民日報』ではこう指摘している。「規制側が独占禁止を強化し、無秩序な資本拡張を止めるのは、ネット資本をイノベーションへと導き、その強力な資本投入によって科学技術のイノベーションを活性化させ、国や社会により大きな貢献をさせるためである」

私もそうなることを期待したい。

 

1)ダブルイレブン 双十一

2)独占禁止 反垄断

3)模様眺め 观望

4)常連客いじめ 杀熟

5)小細工を弄する 耍小伎俩 

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