鈴木英敬・三重県知事:三重の特色生かし未来志向の交流を

2018-12-29 14:35:29

聞き手=于文 写真=呉文欽

 

「競争関係が協力関係に変わった。隣国として互いを脅威とせず、自由で公平な貿易体制を形成する」

安倍晋三首相の10月末の訪中は大きな成果を生み、中日両国の関係は正常な軌道へと歩みを戻した。両国首脳による会談では、産業の発展、経済貿易の交流、第三国市場での協力などについて具体的な調印と多項目の協議を行った。これにより、地方を含む日本の各界が挑戦への勇気を得て、中日関係の改善、協力の強化に大きな期待が持たれている。

輸出貿易が盛んな三重県では、現在の中国がまさに必要としている環境対策や災害予防のノウハウも豊富だ。日本国内の地方自治体の首長の中でも若い「70後」(1970年代生まれ)の鈴木英敬知事(44)は、未来の中日関係を担う青年に期待を寄せている。

 

――初訪中の印象と、最近の中国の発展と変化について感想をお聞かせください。

 鈴木英敬知事 三重県知事としての初訪中は2011年の8月末で、同年4月の知事就任後、初の海外ミッションが中国でした。三重県と友好提携する河南省との提携25周年という節目の訪問でした。鄭州市と開封市では、農業関係や環境保護、観光関係の部門を訪ね、観光の促進強化の覚書を新たに締結しました。当時、鄭州市だけで人口が860万人。一方、三重県は県全体でも180万人でしたから、鄭州市だけでも三重県よりはるかに人口が多いことが印象に残りました。中国のGDP(国内総生産)が世界第2位になった直後のことで、パワーと躍動感を非常に感じました。

 昨年末にも中国に行きましたが、キャッシュレスやテクノロジーなどは日本をすでに越え、テクノロジーにしてもインフラ整備にしても、非常に先進的な部分が多くなっており、世界をけん引するような形になっていると感じています。初訪中の頃は、今後伸びていくためのパワーをためている最中だったのでしょうね。

 

――三重県と河南省は1986年に友好提携を結んでいます。提携のきっかけと、30年余りの交流と協力で得た成果とは何でしょうか。

 鈴木 河南省との提携を決めた理由は二つです。一つは、県庁所在地の津市と河南省の省都鄭州市の緯度がほぼ35度と同じだったこと。もう一つは、当時の田川亮三知事が農林水産省出身のため農業に詳しく、小麦などを多く生産する河南省の農業に注目したからだと聞いています。80年代は中国が改革開放を始めた大切な時期だったため、農業の人材交流が大いに行われました。

 さらに環境問題での交流です。三重県は60年代に、深刻な大気汚染や水質汚染を起こした四日市公害を経験しました。これを乗り越えた歴史をもとに、新興国などに環境改善の技術移転を行うための国際環境技術移転センター(ICETT)を90年に設立しました。河南省の皆さんにも、ここで経済成長に伴う環境問題への対応方法を学んでいただいており、農業と環境問題における交流の大きな成果を感じています。ICETTは、設立から約25年間に数十カ国の来訪者を受け入れてきましたが、一番多いのが中国です。今の中国は経済成長と環境保護の両面で対策を強化していますから、河南省と一緒に頑張れることはないかと考えています。

 

――四日市港は日本で10番目の外貿コンテナ貨物取扱量を誇る大きな貿易港だそうですが、中国からの輸出入は多いのでしょうか。

 鈴木 輸出入の合計取扱量が最も多いのが中国です。つまり、三重県にとって最も重要な貿易パートナーが中国であるということです。1週間で17航路のうち10航路が中国に寄港するという環境も手伝い、三重の企業は中国に対して高い関心を持っています。今年1月は上海、7月は大連と、新たな定期航路が結ばれました。三重県からの輸出は化学薬品、合成樹脂などの化学製品が多く、中国からの主な輸入は日用品です。

 

――今後、中国と協力を展開していく可能性がある分野は。

 鈴木 大気汚染や水質汚染などの公害を乗り越えた経験と、その技術を移転するセンターを持っているので、環境問題に関する協力には非常に強いだろうと思っています。

 私は今、全国知事会の防災委員長として、地震や台風などの災害対応のリーダーを務めています。中国も内陸部を中心に地震が多いので、日中が協力してASEAN(東南アジア諸国連合)各国における災害対応のノウハウや技術の向上に着手すれば、三重県も積極的に参加できると考えています。また、伊勢湾台風の経験がある本県として、台風における防災関係の協力などもできるのではないかと思っています。

 われわれが今期待しているのは、木材の分野です。今年8月から中国のルールが変わり、日本のスギやヒノキを住宅などの建物に使えることになったため、ヒノキの生産量が多い三重県は、木材を使ったホテルや飲食店の建築をお手伝いできる可能性を模索中です。実は今も事業者が河南省の事業者のもとを訪れ、木材の輸出に関する共同プロジェクトを働きかけているようです。今後の協力関係の発展に大いに期待しています。

 

――両国関係発展のためには、どのような点を改善し、発展させたら良いと思いますか。

 鈴木 国のトップの往来は非常に大事だと思いますので、両国政府の交流が進むことに期待していますが、草の根交流など、さまざまなチャンネルやルートでの交流も大事だと思います。地方同士の交流はもちろん、個人の交流、あるいは三重県と河南省が卓球チームを組んで大会に出場したようなスポーツ交流、文化や教育面での交流など、多岐にわたる交流が必要でしょう。

 三重県が中国と良い関係になることで、三重県民の皆さんが中国との交流に対して積極的にもなるし、好感度も上がるのではないでしょうか。われわれはそういう影響を持った組織ですので、大事な隣人と良好な関係を保つにはどうすれば良いかを、中国の皆さんと共に考えていくことが大切だと考えています。

 また、次世代を担う若者同士の交流も大切です。三重大学の留学生の半数以上は中国出身です。人材は地方の宝ですから、三重県を知る中国の留学生は、今後中国と三重県をつなぐ懸け橋になってくれる大切な存在です。しかし日中関係が悪くなれば、交流や留学をしようと思う若者は減ることでしょう。関係や人材を未来につなぐことを考えれば、政府を含む日中関係が良くなることは、非常に重要なことです。私は、次世代を中心とした未来志向の交流を積極的に展開していくことが大切だと考えています。

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