本間哲朗 組織改革で中国の速さ実現

2020-06-09 10:12:08

王衆一=聞き手

 

本間哲朗 パナソニック中国北東アジア社社長

1985年、大学卒業後に松下電器産業に入社。台湾地区で中国語を学んだことがある。2017年から専務執行役員、19年から代表取締役専務、中国北東アジア社社長。

 

 40年余りの改革開放政策で中国のビジネス環境には大きな変化が起きており、日本企業は時代に即して変化しなければならない。日本企業にとって中国市場の位置付けは40年前には「生産拠点」だったが、20年前から次第に「生産拠点+市場」に変化してきた。多くの日本企業が現在、コスト高で変化の速い中国市場の新たなニーズに向き合い、そのビジネスモデルを再び変革しようとしている。

 パナソニックは日本で最も早く事業部制を導入した企業の一つだ。事業部制という経営モデルの下、企業は製造コストの比較的低い国に投資して工場を建設し、その製品を世界各国に販売した。こうした経営モデルは国外の「生産拠点」のニーズにうまく対応したが、「生産拠点+市場」の段階で新たな試練に直面するようになった。

2019年4月にパナソニックの社内カンパニー、中国北東アジア社社長に就任した本間哲朗氏は企業組織モデルを大胆に改革し、中国事業に新たな活力をもたらしている。

 

――13年以降、本間社長はパナソニックで家電事業を担当され、日本で中国などの関連業務を統括されましたが、19年からさらに中国や北東アジア全体を中国で担当されています。業務内容の拡大や勤務地の変更により、中国市場に対する認識に大きな変化があったのではないでしょうか。

 

 本間哲朗(以下、本間) 25年前、家電は中国における松下電器産業(現パナソニック)の事業拡大の重点でした。そのころ中国はすでに製造大国で、しかも急速に製造大国から消費大国に変化しようとしていました。私は19年に中国に来てから、中国がイノベーション大国へとまい進していることを日々実感しています。今後も、中国はこれまでと同様に絶えず変化するでしょう。毎年の国内総生産(GDP)の成長率を6%として計算すると、中国の経済規模は25年前後に米国を超えます。中国では現在、毎年の大卒者数は日本の15倍で、ユニコーン企業(企業価値1000億円強の未上場企業)の数は世界第2位です。この客観的な事実から見ても、中国経済には依然として非常に大きな成長の余地があります。さらに、単に成長の余地を見れば、中国1国で世界の3分の1を占めています。

 パナソニック自身の中国での事業規模は約2兆円で、社の売上高全体の4分の1前後を占めています。自動車メーカーを除けば、中国の日系企業の中で私たちは最大です。

 一方、中国のビジネス環境の変化に伴い、意思決定のスピードや経営効率の面で、中国市場開拓や経営モデルに対して新たな変革を行う必要があります。

 

――日系家電企業を見ると、テレビは中国で絶対的に優勢だった地位がすでに揺らぎ、テレビ事業から離れた企業が比較的多く、積極的な戦略を構築する企業はやや少ないと感じます。

 

 本間 18年7月、中国勤務の社員や中国勤務を希望する社員を40人余り集めてチームを組織し、新しい中国戦略を検討しました。私たちはまず自分たちの問題を分析し、企業の事業展開のスピードが遅く、中国での経営が主に日本の本社の方を見ており、決定スピードが非常に遅く、中国の価値観や中国市場の急速な変化に対する理解が不足していると深く感じました。中国に85カ所の拠点を持っていますが、それぞれが各自の判断で動き、中国人従業員の能力が十分に発揮されているとは言えませんでした。市場に挑戦する勇気がなく、中国のサプライヤーが急速に台頭してきた時にもうまく活用できませんでした。

 約2カ月後の9月にこのチームは提案を取締役会に報告しました。中国に向き合う新しいカンパニーを立ち上げ、中国市場に積極的に参与し、中国でチャイナスピード、チャイナコスト、チャイナスタイルを実現し、それによって新しい成果を獲得するのが全体方針です。

 

――多くの場合、一つの分野に「力を集中して大きなことを成し遂げる」のが中国企業の経営スタイルです。日本の総合家電メーカーは往々にして事業分野が多岐にわたります。

 

 本間 中国での事業規模2兆円のうち、家電と住宅設備が30%、約7000億円を占めています。もし中国での開発、製造、販売の全責任を一つにまとめ、人、金、物の決定権を中国側に帰属させれば、中国の積極性と自発性を発揮させることができます。

 私たちは家電と住宅設備事業をベースに五つの事業部を設置し、11人から成る経営会議を組織し、スマートライフ家電事業部、住建空間事業部、コールドチェーン(中国)事業部、冷熱空調デバイス事業部、台湾事業部などを編成しました。中国業務の重点を暮らし空間と生鮮食品のサプライチェーンの2方面、企業消費者間取引(B2C)と企業間取引(B2B)の2方面に置き、中国企業と共創する方式を採用し、事業の拡大を実現します。

 

昨年11月、上海で開かれた第2回中国国際輸入博覧会でパナソニックが展示した養老空間(写真提供パナソニック)

 

――江蘇省宜興市での養老プロジェクトでパナソニックはすでに具体的な業務を推進しています。

 

 本間 それはチャイナスピードの代表的な事例です。19年5月に中国側の協業の提案を受け、翌月に私たちは協力を決定し、12月には街区と住宅建設の関連内容の設計をもう終えました。20年3月に着工し、21年春に住宅800戸の販売を開始します。ビジネスモデルの変革を経て、パナソニックは関連プロジェクトの推進スピードにおいて、もはや絶対に中国企業には劣っていません。

 このほか、私たちは中鉄鉄龍大連物流パークの建設にも関わっており、サプライチェーン分野でも中国のパートナーと新しい関係を構築しました。

 チャイナコストとチャイナスタイルの実現でも同様に自信を持っています。

 

総編集長のつぶやき

 パナソニックは事業部制を中国に持ち込んで大きな成功を収めた企業だ。中国での2兆円の売上高は、ほかの日系総合電機メーカーが比べられるものではない。現在、企業組織に対する本間社長の変革により、パナソニックは中国市場で共創と革新を通じて新たな成果を獲得する能力を持っている。

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