杭州銘茶の紅一点「九曲紅梅」

2017-11-01 09:53:53

                                                              文・写真=須賀努

 浙江省杭州といえば、お茶の世界では何といっても中国緑茶の代表銘柄、龍井茶が有名だ。そして杭州郊外には静岡茶の源流ともいわれる径山茶など、一般にはあまり知られていないおいしい緑茶もある。浙江省といえば、明らかに緑茶の一大産地なのだが、その中で紅一点、九曲紅梅という紅茶があるのをご存じだろうか。杭州十大銘茶を「九緑一紅」と呼ぶのはこのためである。(実は越紅という紹興付近の紅茶も作られているが、その産量は極めて少ない)

                               

国内外で高く評価されたが…  

 大体お茶の名前には産地の地名が付けられるのが普通だが、九曲紅梅の九曲とは、武夷山にある九曲渓から付いたという説があるが、どうだろうか。1850年代に起きた太平天国の乱の混乱により、福建省より杭州郊外に逃げてきた農民の中に、紅茶製造の経験のある者がいて、それによって紅茶が伝えられ、その後この地に合った改良が加えられ、おいしい紅茶が作られたと伝えられている。 

 この紅茶の製造方法が福建省から渡ってきたのは事実のようで、その品質には定評があった。1915年にパナマ運河開通記念として開かれたサンフランシスコ万博では他の中国紅茶と共に大賞を受賞、国内でも29年に初めて開かれた杭州西湖博覧会で九曲紅梅を含む杭州紅茶が特賞を受賞している。今回訪れた九曲紅梅の原産地、西湖区双浦鎮双霊村には、博物館があり、当時の新聞記事が展示されており、それらを確認することができる。30年代には既に杭州の代表的緑茶であった龍井茶と比べられるほど有名になっており、かつ値段も高かったとある。 

 だが37年の日本軍侵攻で荒廃し、生産は一時停止する。新中国成立後の50年代に復活し、政府の方針で増産していく。ただ60年代以降、生産大隊で生産が行われ、龍井茶の名声が高まるにつれ、紅茶生産は減少していき、いわゆる「紅改緑」の方針に代わっていった。 

 双霊村で3代にわたって紅茶作りをしているという賈炳校さんに聞くと、「1982年に兵役に行ったとき、故郷の農地が各家に分配され、個体企業としての生産に変化した。だがそのころ、紅茶の価格は非常に安くて、もうからなかった」という。輸出競争力は既に無くなり、当時の価格は1斤(500g)、わずか0?5元だったらしい。賈さんもさまざまな仕事を行い、茶業は副業だったという。 

 龍井茶はそのころ、既にかなり高い価格で取引されており、農家は競って緑茶生産に切り替えた。まさに市場経済の到来である。つい最近まで紅茶を作る農家など賈さんの家を含めて、数えるほどしかなかった。九曲紅梅という名前は完全に埋もれてしまい、2000年に商標登録されたものの、一般消費者には知られず、幻の紅茶となってしまっていた。 

 ところが08年ごろから金駿眉など、福建紅茶のブームが巻き起こると、にわかに紅茶生産が復活をみせ、皆が一斉に紅茶作りを開始した。だが技術の継承が途切れている農家では本格的な紅茶を作ることはできず、伝統的な九曲紅梅を作る農家は6~7軒のみとなっているという。

双霊村の茶畑

 

進む機械化と観光地化  

 九曲紅梅の特徴は、伝統的な製法として「出来上がった茶葉が鈎のように曲がっていること」と言われる。なぜそんな形になるのか、と尋ねると、「布袋に入れて発酵、団揉するから」と言われ、驚く。それは鉄観音茶や台湾の烏龍茶の製造工程に似ている。この辺もまた福建のにおいを感じる。賈さんも兵役で赴任した場所が福建省だったと言い、福建の茶作りの現場を見る機会があったことが、現在の紅茶作りに役立っていると言っていた。 

 ただ現在、手作りの茶は極めて少ない。基本的に機械化が進んでおり、布袋に茶葉を入れることも無くなっているようだ。賈さんの作業場には、安徽省の田舎で買ってきたという、木製の製茶道具が並んでいたが、「これは趣味の骨董だよ」と笑いながら、その使用を否定している。 双霊村には最近主流の品種、龍井43が多く植えられているが、一部斜面には数十年前の茶樹も残っている。だが本当に良い紅茶を作ろうとすれば、大葉種の方が適しているとのことで、賈さんは浙江省と江西省の境、標高1000?の山中まで出掛けて行き、原料となる茶葉を調達することもあるという。 

現在は使われていない製茶道具

 ちなみに双霊村の人口は700人程度で、実に静かな村であるが、中国の一大観光地である杭州市内からわずか15?程度と近いため、他の地域同様、観光茶園計画が進んでいる。あと1年もすれば、立派な観光地が作られ、この静かな環境は失われていくだろうと思われる。果たしてそれが村人にとって、またこの地の紅茶にとって良いことなのかとふと考えてしまった。

人民中国インターネット版 2017年9月

 

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