チャンスもチャレンジも 習近平主席が賀詞で明言

2019-02-02 13:31:27

文=(財)国際貿易投資研究所(ITI)チーフエコノミスト 江原規由

 

 習近平国家主席は、今年の新年賀詞で、昨年を振り返り、「大変充実し揺るぎない1年であった」とし、今年は「チャンスもチャレンジもある」と明言しました。総じて、新年賀詞では、改革開放のスピードアップ、ハイクオリティー発展、民生向上(1000万人をはるかに超える貧困脱却雇用の実現など)が強調されています。注目すべきは、貧困脱却に努力し、また、命もいとわず人民に奉仕した11人を実名で紹介し、「~われわれは人民にしっかりと寄り添い~」と言及し、さらに、「宅配便の宅配スタッフ、都市の清掃員、タクシードライバーおよび多数の労働者諸氏が美しい生活を創り出してくれている努力に感謝しなければならない」と、人々の労働、日常への言及に多くの時間を割いているところでしょう。

 

 

今年元旦、遼寧省朝陽市の大凌河の氷上で「初滑り」を楽しむ市民スケーター(cnsphoto)

 今年は新中国成立70周年です。習主席の賀詞における「人民ファースト」の姿勢は、新中国成立の父とされる毛沢東主席の「為人民服務(人民のために奉仕する)」の教訓をほうふつさせてくれるようです。

 習主席の新年賀詞から、今年が、昨年の改革開放40周年の成果を受け、2020年の小康社会の全面的実現、そして、21年の中国共産党結党100周年への開局年となっていることが読み取れます。

 

安定した中米関係の推進を

 昨年は世界経済の大停滞を招いた08年のリーマンショック10周年でした。世界経済にとって、その二の舞ともなりかねないと懸念されているのが中米貿易摩擦の行方です。今年は、中米国交樹立40周年を迎えますが、昨年1229日、習主席はトランプ大統領との電話会談で、「国交樹立40周年に当たり、共に重大な国際地域問題につき意思疎通を図り、協調、協力、安定した中米関係を推進することを望む」とし、また、トランプ大統領は、「アルゼンチンでのコンセンサスが実現されるよう両国の関係者が努力をしていることは喜ばしく、世界各国人民にとって好ましい成果となることを期待する」と応じたと報じられています(新華ネット昨年1230日)。昨年3月、米国が口火を切った貿易摩擦の影響を考慮し、同年9月、世界貿易機関(WTO)は、昨年と今年の世界の貿易量の伸び率(4月時点、44%、40%)を前年比39%、37%にそれぞれ下方修正しています。現在の世界経済は、少なくとも、トランプ大統領が期待する「好ましい成果」となっていないと言えるでしょう。

 この点、中国は、昨年11月、上海で世界初となる国際輸入博覧会(注1)を開催するなど、世界経済の難局打開に向けていくつもの布石を打っています。新年賀詞にはこんな言葉があります。「世界に目を向ければ、今、この百年間で未曽有の大変革に直面している。しかし、国際情勢がいかに変化しようとも、中国が世界平和を維持し共同発展を促進するという誠意と善意は変わらない」。そして、賀詞の最後に、「中国は『一帯一路』(シルクロード経済ベルトと21世紀海上シルクロード)の共同建設を積極推進し、引き続き人類運命共同体を推進し、さらに繁栄した美しい世界をつくるため努力を惜しまない」。1835字に及ぶ新年賀詞の中で、世界に対するメッセージがこの部分に濃厚に集約されているとみられます。何より、中国が「一帯一路」構想の推進にいかに大きな期待をかけているか、今年の賀詞で改めて宣言されていると見るべきでしょう。

 

グローバルガバナンス改革

 昨年12月、中国は、国連への拠出金を削減する米国のトランプ政権を尻目に、国連分担金の比率で世界第2位となりました。すでに16年、国連の平和維持活動 (PKO)予算でも同2位になっているなど、国際機関の諸活動にますます主導的かつ重要な役割を演じつつあります。新年の賀詞は中国人民向けメッセージが中心となっていますが、その中で言及されている「中国決心(中国の決意)」「中国主張(中国の主張)」「中国声音(中国の声)」などの引用に、世界に対する中国のメッセージが読み取れます。この点、習主席が重要講話や首脳会談などでよく言及する「中国智慧(中国の知恵)」「中国方案(中国のプラン)」なども同じです。筆者は、こうした数ある「4字言葉」に中国が提起する公正で客観的なグローバルガバナンス改革への中国の姿勢が込められていて、世界100カ国余りが参加支持している「一帯一路」は、まさにその実践の一つの大きな機会となっていると見ています。

 

30年に世界3大イベントを

 さて、中国は、国際機関の諸活動のほか、国際イベントでもますます主導的かつ重要な役割を演じつつあります。今世紀に入ってからの世界3大イベントとされる万博(注2)、五輪、ワールドカップ(W杯)の視点から、グローバルガバナンス改革と「一帯一路」推進の意義について、見てみたいと思います。

 今、中国が提起希求しているグローバルガバナンスの改革には、中国のソフトパワーのさらなる発揮が必要なことは言うまでもないでしょう。ソフトパワーとは、軍事力や経済力などの対外的な強制力に偏らずに、自国の価値観や文化によって他国を魅了し影響を与え得る能力のことを指す、とされます。中国流にいえば、「中国決心」「中国主張」「中国声音」「中国智慧」「中国方案」などの「4字言葉」、国際輸入博など中国のいう「国際公共財」もソフトパワーの一角を形成するといえるでしょう。中国は、国連の諸活動での貢献は言うに及ばず、国内総生産(GDP)、製造業、貿易、消費、対外投資などでも大国の地位にあり、世界経済の発展に大きく貢献してきています。では、ソフトパワーではどうでしょうか。この点、世界3大イベントは、ソフトパワーの宝庫といえます。その開催地(今世紀)を見ると、日中韓3カ国に多く、「一帯一路」沿線国に集中していることが分かります。特に万博の開催地には、この傾向が明らかです。「一帯一路」の推進にとって、世界3大イベントには「天の時」と「地の利」があり、中国がソフトパワーを発揮する重要なチャンスとなっていると言えるのではないでしょうか。

 ところで、30年の3大イベント開催地はいずれもまだ決まっていません。グローバルガバナンスの改革を提起する中国が、国連の持続可能な開発目標(SDGs)の最終年で、第4次産業革命が人類の日常を大きく変えているとされる30年に、そして、中国が経済強国となっているに違いない30年に、世界3大イベントの開催国になっていることを期待する人はますます増えてくるのではないでしょうか。

 

今世紀の万博五輪W杯開催地

2002年:日本韓国(W杯) 米国(ソルトレークシティー冬季五輪)

2004年:ギリシャ(アテネ五輪)

2005年:日本(愛知万博)

2006年:ドイツ(W杯)  イタリア(トリノ冬季五輪)

2008年:中国(北京五輪)

2010年:中国(上海万博) 南アフリカ(W杯) カナダ(バンクーバー冬季五輪)

2012年:韓国(麗水万博) 英国(ロンドン五輪)

2014年:ブラジル(W杯) ロシア(ソチ冬季五輪)

2015年:イタリア(ミラノ万博)

2016年:ブラジル(リオデジャネイロ五輪)

2017年:カザフスタン(アスタナ万博)

2018年:ロシア(W杯) 韓国(平昌冬季五輪)

2020年:アラブ首長国連邦(ドバイ万博) 日本(東京五輪)

2022年:カタール(W杯) 中国(北京冬季五輪)

2023年:アルゼンチン(ブエノスアイレス万博)

2024年:フランス(パリ五輪)

2025年:日本(大阪関西万博)(注3)

2026年:カナダメキシコ米国(W杯)

2028年:米国(ロサンゼルス五輪)

 

 

1:172カ国地域から3600社以上が参加、40万人以上の国内外の購買担当者が商談。

2:登録博と認定博がある。愛知万博、上海万博、ミラノ万博、ドバイ万博、大阪関西万博は5年ごとに開催される規模の大きい登録博。国際園芸博は除く。

3:日本のほか、アゼルバイジャン(バクー)、ロシア(エカテリンブルク)、フランス(パリ郊外サクレー、辞退)が開催に立候補していた。

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