「一帯一路」の共同建設強調 フォーラムで習近平主席

2019-06-17 13:53:32

江原規由=文

4月開催の第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラム(以下、第2回フォーラム)の開幕式での基調講演で、習近平国家主席は「『一帯一路』の共同建設は、経済グローバリズムの歴史的潮流であり、グローバルガバナンス体系の変革への時代の要求である」と強調し、「未来に向け共に『一帯一路』の『精密画』を描こう」としました。「『精密画』を描く」とは、「一帯一路」が構想(デッサン)の段階から実務実行の高台に入ったということといえるでしょう。

 

共に「精密画」を描く布陣

「一帯一路」の主要事業である「五通」(政策連携、インフラ連結、貿易円滑化、資金融通、文化人材等交流)については言えば、これをさらに発展拡大させ、新たな道を切り開いていくということになるでしょう。2013~18年末の実績を見てみましょう。

政策連携では、中国が150余りの国や国際組織と170件余りの協力文書に調印、「一帯一路」の共同建設国がアジア、欧州からアフリカ、中南米、南太平洋へと広がっていること。

インフラ連結では、「中欧班列(中国—欧州間定期貨物列車)」が累計1万3000本運行され、物流の新たな国際ネットワークが構築されつつあること。

貿易円滑化では、沿線国との物品貿易額が6兆を突破し、中国の貿易総額の274%を占めるまで拡大していること。 

資金融通では、欧州復興開発銀行などの多国間開発銀行との間で共同融資を展開し、対象国は七十数カ国地域(累計100件以上のプロジェクトに投資)に拡大していること。

文化人材等交流では、「一帯一路」沿線24カ国と高等教育の学歴学位相互認証協定を締結し、今後5年間、「一帯一路」で共同建設する国の政党、シンクタンク、民間組織などから1万人の代表を招請し交流を図る計画にあることなど、枚挙に暇なしです。

第2回フォーラムでは、「12分科会」が設置され、「一帯一路」の発展協力強化につき幅広い議論が展開されましたが、この「12分科会」は、正に、「未来に向け共に『一帯一路』の『精密画』を描く」布陣でもあるといえるでしょう。

 

「五通」事業と「三共」精神

「一帯一路」の意義は、前述の「五通」事業に加え、共商共建共享(共に話しつくり分かつ)の「三共」精神にあるといっても過言ではないでしょう。習主席は基調講演で、「『一帯一路』共同建設のカギは『互聯互通』にあり、国際的互聯互通伙伴関係(パートナーシップ)を構築し共同繁栄実現しなければならない」としています。筆者は習主席の基調講演の核心がここに集約されていると考えています。この「互聯互通」には、「五通」事業と「三共」精神が内包されているといえます。このうち「三共」精神とは、文字通り、「共に」(WINWIN)、英語の「WITH」での対応とその実現にあるといえるでしょう。

13年9月の「一帯」、同10月の「一路」の提唱以来わずか5年余りの短期間に世界100カ国余りが参加、支持する「一帯一路」は、世紀の国際事業に違いありません。歴史的に見て世紀の事業は少なくありませんが、「一帯一路」についていえば、この「共に」を前面に押し出しているところにその特徴と先見性が認められるのではないでしょうか。この点、米国内を二分する南北戦争に勝利し世紀の奴隷解放宣言を行った第16代大統領リンカーンは、「人民の(of)、人民による(by)、人民のための(for)」政治を強調し歴史にその名をとどめています。人民と共に(with)とは言いませんでした。当時とは、時代的背景や置かれた状況が異なっており、単純に比較はできませんが、経済をはじめあらゆる面でグローバル化が進む現在においては、「withthe World」が重要なことは言うまでもありません。このことは、「三共精神」を強調している「一帯一路」に、世界の関心と期待が高まっていることからも明らかでしょう。リンカーン大統領がかの演説で説いた精神と中国の「三共精神」が連携すれば、基調講演で強調されている新時代のグローバルガバナンスの構築に大きく近づくのではないでしょうか。「一帯一路」が経済国際化、グローバリズム推進のプラットフォームであるゆえんでもあります。

筆者は、第2回フォーラム開幕式の会場で習主席の基調講演を聞きながら、「一帯一路」の「三共」精神に出合った思いがしたものです。習主席の基調講演は20カ国語の同時通訳付きでした。第2回フォーラムには150カ国余り、90余りの国際組織から5000人に近い外国人ゲストが参加しましたが、20カ国語の同時通訳付基調講演は、まさに、「一帯一路」の「三共」精神を能弁に語っていると感じたものです。20カ国の同時通訳付きの国際会議は、おそらく、「一帯一路」フォーラムの基調講演をおいてほかにはないのではないでしょうか。ちなみに、日本語は通訳レシーバーNO19で提供されていました。

 

北京で425日に開かれた第1回「一帯一路」企業家大会。商工界の交流ビジネスマッチング契約締結協力深化のプラットフォーム構築を目的としている(新華社)

 

「伙伴関係」がキーワードに

さて、前述した「国際的互聯互通伙伴関係を構築し共同繁栄実現しなければならない」と基調講演で言及されている「伙伴関係」の構築は、「一帯一路」の行方と可能性を見るキーワードといえます。習主席は、伙伴関係のことを、「中国は、何よりも伙伴関係の構築を国家間交流の指導原則と定める(171月の国際連合ジュネーブ事務局訪問時の講演)」としています。その伙伴関係は、「拘束力のある条約や協定によって構築されるのではなく、元首(首脳)の信頼関係に基づく共同声明をもって構築される」とされているところが斬新かつ時代の要求に順応しているといえます。習主席は、「一帯一路」を国際的朋友圏(友達の輪)、国際公共財としています。経済の発展水準が異なり、多様な宗教、民族、価値観、そして、利害が複雑に交錯する「一帯一路」で互聯互通を推進する鍵は、共同声明をもって構築されるという融通性と機動性のある伙伴関係が握っているといっても過言ではないでしょう。

現在、中国は多くの「一帯一路」沿線国を含め、世界100カ国地域組織と「一帯一路」伙伴関係ネットワークを構築済みです。伙伴関係による「一帯一路」互聯互通ネットワークの構築は、新タイプの「一帯一路」経済圏(FTA)や新型国際関係の構築、そして、中国が希求している人類運命共同体建設の礎となるのではないでしょうか。

 基調講演の後、各国の元首、国際機関の長のあいさつがありましたが、いずれも「一帯一路」の意義やその可能性を共有しているという印象でした。そのうち、グテーレス国連事務総長からは、「30年が最終年となる持続可能な開発目標 (SDGs)への中国の積極的な貢献に感謝する」との謝辞がありました。来年、中国は小康社会(誰もがいくらかゆとりを感じられる社会)を実現します。今後、その経験は「一帯一路」建設における「五通」事業に反映され、SDGsの実現、そして、基調講演で習主席が強調した「共同繁栄を実現しなければならない」という世界への思いをかなえる上で大きく貢献していくのではないでしょか。

 

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