アジア文明の対話を通し「一帯一路」につながる意義

2019-07-08 16:17:27

江原規由=文

今年4月の第2回「一帯一路」国際協力サミットフォーラム(6月号の本欄参照)の開催から3週間後、同じく北京で、アジア文明対話大会が開催されました。日本のメディアでは、直前の「一帯一路」フォーラムに比べると関連報道が少なかったようですが、現下の世界情勢に鑑みると、極めて重要な国際会議であったといえるでしょう。今、世界(経済)におけるアジアのプレゼンスが急速に高まってきています。筆者は、これには高度な文明を構築してきたアジアの歴史と大いに関係があると、アジア文明対話大会に出席して再確認したものです。

 

文明ガバナンスが相互影響

 世界にはあまたの文明が存在しますが、世界陸地の3分の1、世界人口の3分の2、47カ国からなるアジアは、人類文明発祥の地の一つであり、世界文明の交差点であったともいえるでしょう。例えば、紀元前数千年から、チグリス・ユーフラテス両川流域(西アジア)に栄えたメソポタミア文明、インダス川流域(インド北西部・パキスタン)に成立したインダス文明、黄河・長江(揚子江)流域を中心とする中国文明などが指摘できます。言い換えれば、紀元前からアジアにはいくつもの「文明ガバナンス」が存在し、相互に影響し合い多様な歴史や文化を築いてきたということになります。

 アジア文明対話大会の開幕式の基調講演で、習近平国家主席は、「歴史を振り返り、世界を展望する際に、われわれは文明の自信を増強する必要がある。(中略)世界のそれぞれの文明との交流を通じて、アジア文明に輝ける新ページを記し続ける努力をする必要がある」と強調しましたが、アジア文明を前面に押し出して、世界におけるアジアの存在を強調し、その未来を捉えようとの視点は新鮮かつユニークといえるでしょう。紀元前に端を発するシルクロードは、こうしたアジアのそれぞれの文明交流を促進してきたわけですが、今日、その歴史的任務は「一帯一路」にも引き継がれようとしているといえるでしょう。 

 この点、習主席が基調講演で、「アジア各国が開放精神を堅持し、政策協調、インフラ整備、貿易円滑化、資金融通、民心交流を促進し、アジア運命共同体、人類運命共同体の共同構築を推進することを期待している」と、「一帯一路」の主要事業を提起していることからも明らかといえます。中国にとって「一帯一路」国際協力サミットフォーラムとアジア文明対話大会とは、いわば双生児的関係にあるといっても過言ではないでしょう。何より、この世界的2大イベントにアジア、そして世界が関心を寄せていることは、いくつもの「文明ガバナンス」を構築してきたアジアの歴史的経験と知恵を、新時代のグローバルガバナンスの形成に生かす時代に入っていることを雄弁に物語っているのではないでしょうか。

 

新たなプラットフォームに

 さて、アジア文明対話大会の開催は、「一帯一路」が提唱されて間もない2015年に習主席が提唱したものです。今回の開幕式には、アジア47カ国およびそのほかの国家、国際組織から1352人に及ぶ代表が出席したとされています。基調講演で、習主席は、「今、世界は多極化し、経済はグローバル化し、文化は多様化し、社会は情報化しつつあり、人類には希望が満ちているが、同時に、国際情勢は不安定かつ不確実で、人類は試練に直面している。アジア文明対話大会は、アジアと世界各国の文明が平等に対話・交流・学び合い、啓発し合っていく新たなプラットフォームを提供した」と、その意義を強調しています。

 さらに、「数千年の発展過程で、アジア人民は輝かしい文明の成果を創造してきている。例えば、『詩経』『論語』『千夜一夜物語』『リグ・ベーダ』『源氏物語』などの優れた古典(経典)、くさび形文字、アラビア数字、印刷術などの発明、万里の長城、タージ・マハル、アンコール・ワット、マスジド・ハラームなど偉大な建築物などである」と。改めて過去の偉業に目を向け、新時代のグローバルガバナンスの形成や、中国が希求している人類運命共同体の構築にアジアの知恵を生かそうとするエネルギーをアジア文明対話大会から垣間見た思いがしたものです。

 この点、深読みすれば、アジア文明という過去の偉大さを誇示するところに、グローバルガバナンスの形成でアジアの発言力を「共に」向上させようとする中国の歴史的対応が認められるようです。

 

習主席が『源氏物語』も紹介

 ところで、習主席の基調講演で、『源氏物語』が輝かしい文明の成果を創造してきた事例として、『詩経』や『論語』と並べて紹介されているところは、日中関係改善ムードの表れといえるのではないでしょうか。この点、最近、中国各省・直轄市・自治区からのミッションの訪日が増えてきました。中国の対日ビジネス交流に対する積極姿勢が目立って来ているようです。ビジネス交流だけでなく、今年は、「日中青少年交流推進年」であり、今後5年間に3万人の日中青少年の相互訪問による各種交流が予定されています。かつて、日本は遣隋使、遣唐使、鑑真和上の来日などアジア・中国文明の恩恵に浴してきましたが、今日、アジアにおける日中両国による第三国市場協力の推進などを通じ、アジア文明から得た恩恵をその地に還元しつつあるともいえるでしょう。アジア文明対話大会の意義の一面が認められるようです。

 

吉林省・集安で購入した力士が描かれている壁画の模写(写真・筆者提供)

 

「和」で文明衝突論の解消を

 

 文明という言葉には、なにか深淵なるイメージがありますが、アジア文明対話大会の開催直後の『人民日報』(5月21日付)の「鐘声」というコラムに「不要逆歴史潮流而動_『対華文明衝突論』可以休矣」(歴史の流れに逆行するような対中国文明衝突論は止めたほうがいい)と題する記事が載りました。米国国務省の高官が米国の対中関係は文明の衝突だと決めつけたことへの反論となっています。同コラムでは、中国文明の一大特質は「和」、すなわち「和をもって貴しとなす」であり、前漢の張騫が平和使節団を率いて長安を出発し東から西への道を開拓したことや、600年ほど前に鄭和の7回に及ぶ「下西洋」(中国_アフリカ東岸航海)による異文明との交易の実績などを指摘し、その姿勢は今も変わっていないと、文明衝突論を否定しています。張騫の旅程、鄭和の航海は今の「一帯一路」に重なっており、中国が「一帯一路」を「文明の道」とするゆえんが認められるようです。

 

 5月、トランプ米大統領が国賓として来日し、日本の「国技」である大相撲を観戦したことが話題となりました。筆者が中国と朝鮮との国境都市の吉林省・集安を訪問した折、博物館で買い求めた古墳の壁画の模写には、まわしこそ締めていませんが、がっぷり四つに組んでいる力士の姿が描かれていました。日米首脳が楽しんだ相撲にもアジア文明の伝播と対話があったことが分かります。さて、6月には主要20カ国・地域(G20)首脳会議が大阪で開催。G20はアジアに限られているわけではありませんが、アジア文明対話大会の成果普及を期待したいものです。

 

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