「中国経済の国際化」から「世界経済の中国化」時代

2019-11-22 10:08:03

 江原規由=文

「中国経済の国際化」が話題となって久しくなりましたが、今や、「世界経済の中国化」に関心が寄せられつつある、そんな時代に差し掛かりつつあると言えるのではないでしょうか。その片りんは、2013年に打ち出された「一帯一路」イニシアチブへの世界的支持、世の中を急速に変えつつある第4次産業革命―人工知能(AI)、モノのインターネット(IoT)、ブロックチェーン、ナノテクなどによる技術革新―での中国のプレゼンス向上などに見られるといっても過言ではないでしょう。先行きが不透明な中米貿易摩擦も「世界経済の中国化」と少なからぬ関係があると言えます。

今年7月14日、国家統計局から中国経済の上半期実績が発表されました。以下は、その要点と最近、中国のメディアに頻繁に登場するようになった「夜間経済」の紹介です。両者には直接的な因果関係はありませんが、行間に「世界経済の中国化」の一端が感じ取られるのではないでしょうか。

 

成長率6・3%は想定内

 さて、今年上半期の国内総生産(GDP)成長率は6・3%でした。この成長率は同年第1四半期(6・4%)、そして、昨年通年(6・6%)に比べやや低かったことなどから、中国経済が「下振れ」しているのではないかなどといった憶測が世界各紙の見出しを飾りました。例えば、発表直後の「景気後退でさらなる刺激策か」(『ウォール・ストリート・ジャーナル』)、「貿易戦争で成長率(第2四半期の6・2%を指す)は1992年以来最低」(『フィナンシャル・タイムズ』)などを挙げることができます。今や、世界経済の発展に最も貢献している中国経済の成長率に、世界各国の関心が高まるのは当然と言えるでしょう。国家統計局は、「全体的に見て、上半期の国民経済は合理的な範囲(GDP成長率6・0~6・5%)で運営されており、安定の中で成長の発展傾向が続いているが、現在国内外の経済情勢が依然として複雑で厳しい状態が続き、経済が新たな下振れ圧力に直面することも意識しなければならない」と総括しています。 

 国家統計局の発表を深読みすると、現下の中国経済は次の二つの局面に向き合っていると言えるでしょう。すなわち、中国経済が、①開放型世界経済の推進面(特に、中米貿易摩擦への対応、「一帯一路」の積極的推進)で新たな局面に入りつつあること②ハイクオリティー成長・生産体制への転換期にあること、の二つです。前者は、中国が提起している国際経済ガバナンス改革の行方、後者は、目下、第4次産業革命下、中国が積極推進しているデジタル経済―電子商取引(Eコマース)、情報技術(IT)産業における経済活動など―の行方と深く関わっていると言えるでしょう。

 

消費と第3次産業けん引

 まず、今年上半期のGDP成長率(6・3%)に対する消費、投資、純輸出の寄与率からをみると、それぞれ、3・8%(100%表示では60・1%)、1・2%、1・3%と、ほぼ6対2対2の割合となっており、①消費(内需)主導の経済成長パターンになりつつあること、さらに②純輸出(輸出から輸入を差し引いたもの)の貢献が高まっていることが認められます。

 消費については、消費規模が拡大しているほか、消費構造がバージョンアップしているとしています。一般的に、先進国経済のGDP成長率への消費の寄与率は80%以上となっており、中国での消費拡大の余地は大きいといえます。実際、30年には6兆㌦規模―米国と欧州連合(EU)を合わせた規模にほぼ匹敵―になるとする識者は少なくありません。

 投資については、民間投資や民生向上のためのインフラ投資が回復基調を維持、製造業のバージョンアップのための投資やハイテク分野などへの新規投資が堅調であったことが特筆できるでしょう。なお、産業構造別のGDP成長率に対する寄与率では第3次産業が60・3%と高く、総じて、消費と第3次産業が中国経済のけん引役となっていることが分かります。

 

対米貿易額は3位に転落

 対外貿易については、総額が前年同期比3・9%増(輸出同6・1%増、輸入同1・4%増)で、貿易黒字が同41・6%増の大幅増となりました。貿易収支からは、中米貿易摩擦の影響は認められませんが、実際、対米貿易は同14%減(対米輸出=同8・1%減、対米輸入=同29・9%減)となり、中国にとって、米国は国・地域別で東南アジア諸国連合(ASEAN)に抜かれ3位(1位は米国と日本を上回ったEU)となっています。このように、中国の対外貿易には貿易摩擦に起因する明らかな変化、そして多様化が認められます。品目別では、携帯型パソコン、電動自動車(同91・9%増)、太陽電池などを中心に電気機械製品の輸出額が全体の58・2%を占めており、総じて、輸出入製品のハイテク化が進みつつあると見られています。

 対外投資は同0・1%増でしたが、「一帯一路」参加国(沿線51カ国)への投資が相対的に伸びており、同期総額の12・6%を占めたほか、対アフリカ、対欧州投資が相対的に伸びたこと、分野別で不動産投資が減り、サービス、卸売・小売業、情報伝達などへの投資シフトが認められることなどから投資構造の改善、ハイクオリティー化が続いていると見られます。

 外資導入(同7・2%増)では、ハイテク産業への外資導入が加速度的に集中(同44・3%増、外資導入額の28・8%)したとされています。分野別では、同製造業では、医薬製造業(同12・8%増)、電子・通信設備製造業は同25%増。同サービス業では、情報サービス業(同68・1%増)、研究サービス等(同77・7%増)、科学技術成果移転サービス業(同62・7%増)などが急速な伸びを示しています。地域別では、「一帯一路」との経済交流が深まる西部地区(同21・2%増)と自由貿易試験区(同20・1%増)が、また、投資元国・地域では、EU(同22・5%増)、ASEAN(同7・2%増)、「一帯一路」沿線国(同8・5%増)が相対的に高い伸びとなっています。総じて、対外経済協力面において、「一帯一路」のプレゼンスが高まっていることが特筆できるでしょう。

 

天津市和平区五大道の夜は市民や観光客で大にぎわい。「夜間経済」モデル地区の夜は魅力にあふれている=今年6月(cnsphoto

 

新風吹き込む「巷経済」

 中国は約14億の人口、9億人近い労働力、1億7000万人の高学歴・高技能人材、4億人超のミドルクラス所得層、1億人余りの市場主体(財・サービスの供給サイドなど)を抱えています。彼らは、上半期の6・3%成長、特に消費活動に深く関わっていることは言うまでもありませんが、いろいろな「巷経済」を誕生させ、中国経済に新風を吹きこむ主力でもあります。現下の「巷経済」の代表が「夜間経済」(夕刻6時から明け方6時までの経済・文化活動)です。このところ大都市を中心に政府関係部門がその発展に関わる指導・実施計画・意見を相次いで出すなど、全国的ブームとなっています。1日の半分を占める夜間経済が今後どう発展し、中国経済の消費拡大・ハイクオリティー化に結び付き、さらに、世界経済とどうつながっていくのか、その行方は中国経済と世界経済の関係を見る一つの視点を提供してくれるのではないでしょうか。何より、「巷経済」には、中国経済の本音が見え隠れしています。

 ところで、最近話題の「巷経済」はほかにも少なくありません。最近のケースでは、「顔面偏差値経済」「おひとり様経済」「レコメンド経済」「ものぐさ経済」「レトロ経済」「無人経済」などです。ビジネスや観光拡大などを通じて、中国経済の国際化と世界経済の中国化がさらに進めば、中国の「巷経済」は「対岸の出来事」ではなくなるのではないでしょうか。

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