手を携え災い転じて福に 物心両面でエールを交換

2020-05-27 14:43:32

江原規由=文

 小康社会(ややゆとりのある社会)の全面的実現(中国)、東京オリンピック・パラリンピック開催延期(日本)、大統領選挙(米国)、BREXIT(EUと英国)などと、2020年は世界の主要国・地域で「一大事」が少なくありません。単純比較はできませんが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界的影響、注目度という点で、そのいずれにも勝るとも劣らないでしょう。この世界的な感染症(パンデミック)に対し、トランプ米大統領は自らを「戦時下の大統領」と称し、マクロン仏大統領は「われわれは戦闘状況にある」と危機感を表明しています。この「戦争」にどう打ち勝つのか、世界の未来と文明の知恵がかかっているといっても過言ではないでしょう。

 中国では、非常時を思わせる大動員や中国の特色ある社会主義ならではの応戦体制によって、国家衛生健康委員会が3月12日に感染拡大はピークアウトしたとの見解を示しています。当初、「中国加油(中国頑張れ)」と世界から支援、激励された中国は、今や国際社会と手を携えて感染拡大と闘う姿勢(国際協力の必要性)を前面に押し出しています。例えば、3月12日には、最も感染状況が深刻なイタリアに中国専門家チーム一行9人を真っ先に派遣、さらに、本稿を執筆している3月19日時点では、中国が国際友好都市などを通じ日本、韓国、イタリア、パキスタン、フランス、ドイツなど16カ国に感染防止対策物資を寄贈したと発表しています。総じて、こうした今回の感染症への対応策には中国が希求する人類運命共同体建設の意義を思わせるものがあるといえます。

 

中国経済のプレゼンス示す 

 世界経済への影響ですが、「国境なき感染症」の世界的まん延で、ヒト、モノ、カネの三大経済要素の国際的移動が不自由さを増しつつある点は、冒頭の両大統領の言葉を借りれば、「戦時下の経済」をほうふつさせるものがあります。特に、「世界の工場」と称される中国は多くの点でグローバルな産業、サプライチェーンの「扇子の要」となっています。この点、COVID-19で世界的な大需要となったマスクについては、その過半が中国で生産されていること、対中進出している外資系企業がほぼ100万社に達し世界最多であること、情報技術(IT)や自動車関連の部品、材料などの生産・輸出拠点となっていることなどが指摘できるでしょう。招かれざる感染症の出現で、世界経済における中国経済のプレゼンスがいかに大きいかを再認識した国、企業、人は少なくないのではないでしょうか。

 日本では、オーバーシュート(爆発的感染拡大)が懸念される中、東京オリンピック・パラリンピックはオリンピック史上初めて延期になりましたが、COVID-19の来襲は、日中両国をして、激励や支援といった物心両面でエールの交換が相次いでいることなど連携、協力の重みを改めて意識させてくれたのではないでしょうか。この点、経済交流においてもしかりです。中国同様、日本もグローバル産業、サプライチェーンの一端を担っており、両国経済は相互補完的な関係にあります。この感染症をきっかけに、災い転じて福となすための日中連携強化の可能性について、以下の3点に絞って提言したいと思います。

 

新たな日中都市間交流創出

 その3点とは、①新たな都市間交流の創出、②新インフラ整備における日中協力、③地域経済連携の構築です。

 筆者は、中国がCOVID-19を予想外の早さでピークアウトさせた最大の功労者は厳しい対応で臨んだ都市とみています。日中経済交流でも都市を「扇子の要」にして発展させることができないかと思ったものです。日本経済の発展には、その多くが特色ある地方都市の文化・風土に立脚し「メード・イン・ジャパン」の品質を支えてきた中小企業の国際化が急務となっています。この点、国際展開しつつある中国企業との連携が考えられないでしょうか。COVID-19との関連性(ワクチンの共同研究・開発などを含む)でいえば、25年に大阪・関西万博が開催されますが、テーマは「いのち輝く未来社会のデザイン」です。大阪・関西地区には健康・医療機器メーカーが多いことが万博開催の支持要因の一つとなりました。日本の地方都市には、医薬業界は言うに及ばず、日中両国企業が連携できる地域、機会とパートナーが少なくありません。総じて、日本の中小企業は情報不足です。新たな視点から日本の都市を研究し、地元企業に国際展開の利と義を中国企業からも働きかけてほしいものです。

 

3月28日、生産を再開した山東省のアパレルメーカー青島即発集団の生産ラインで、日本のユニクロから来た注文書を残業して処理する従業員(新華社)

 

5GやAIにおける連携推進

 2点目の新インフラ整備とは、一言でいえば、「デジタル経済」発展のためのプラットフォーム構築と集約できるでしょう。具体的には、第5世代移動通信システム(5G)、人工知能(AI)、クラウドコンピューティング、モノのインターネット(IoT)、データ・センター、工業インターネットなどの経済、社会活動、日常生活への普及拡大のための環境整備といえます。この点、COVID-19対応でクローズアップされたオンラインサービス(注1)や宅経済(注2)の普及などが挙げられます。新インフラ整備は真新しい概念ではありませんが、COVID-19の来襲でその必要性が改めて喚起されたといえます。今、世界は第4次産業革命期、言い換えれば、世界はアナログ時代からデジタル時代への重大な転換期に突入しています。新インフラ整備はそんな時代をリードするための「布石」といっても過言ではないでしょう。 

 中国はスマホ決済などキャッシュレス経済や5Gネットワークの構築で世界の先陣を切っています。そんな中国が新インフラ整備で「デジタル経済」時代にどう向き合おうとしているのでしょうか。新たな日中連携の構築が求められているのではないでしょうか。例えば、世界で唯一フルセットの産業構造を有し、巨大な市場、豊富な人材、特色ある研究開発ネットワークを抱える中国と安心、安全のサービス、ブランド力と技術力のある多数の中小企業が存在する日本との連携(相互補完性の深化)が進めば、第4次産業革命下の世界(経済)の安定と発展に資するところ大なるものがあるといえます。

 日中経済交流は日本の対中経済協力(円借款、長期貿易協定など)に始まり、産業・サプライチェーンの相互構築を経て、今や第三国市場協力の時代を迎えています。

 新インフラ整備は中国で提起、実行されていますが、今後、日中両国の第三国市場協力などを通じ国際展開の可能性が増えてくると期待できるのではないでしょうか。日中両国には、新インフラ建設の国際化、「デジタル経済」のあり方に対する国際的コンセンサスづくりに大いに知恵を絞ってほしいものです。

 

一帯一路で経済交流展開を

 最後に、対「国境なき感染症戦」で最重要戦略の一つが国際連携にあるのは言うまでもありませんが、この点、中国と日本経済の今後の在り方においてもしかりでしょう。中国の対外貿易(1〜2月、ドルベース)を見ると、前年同期比11%減と相手国・地域が軒並み大幅な落ち込みとなる中、「一帯一路」沿線国との貿易は同1・8%増となり中国の対外貿易におけるプレゼンス(全体の31・7%)を上げています。2カ月の短期間ではあっても、春節(旧正月)休暇とCOVID-19まん延下で前年同期比増となったことは、「一帯一路」の発展の可能性を物語っており、日中経済交流においても「一帯一路」での今後の展開(第三国市場協力など)が期待されるのではないでしょうか。目下交渉中の日中韓自由貿易協定(FTA)や日中両国が主導する東アジア地域包括的経済連携(RCEP、アールセップ)が構築されれば、「一帯一路」での日中経済連携はアジア・ユーラシア経済圏形成の布石になるといえるでしょう。

 

注1 診察、授業、会議、観光、料理、裁判など多分野。

注2 在宅での消費活動による経済。

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