中国経済の強靭性を証明 待たれるワクチンの開発

2020-06-15 14:34:48

江原規由=文

 4月24日、中国は5回目の「中国宇宙の日」を迎えました。中国は宇宙事業大国といっても過言ではなく、月探査の「嫦娥計画」、衛星測位の「北斗計画」など多くの衛星が宇宙に展開しています。その「宇宙の日」には、火星探査シリーズの名称が「天問」(注1)と決まり、新たな壮大なプロジェクトが始まりました。目下中国では、人類の未来に夢を育む大計画が着々と進んでいるわけです。

 今、地球の大事業の一つとして、新型コロナウイルスの治療薬やワクチン開発が指摘できるのではないでしょうか。宇宙開発とワクチン開発は同じレベルでは論じられませんが、いずれも、今後、世界との連携、協力が強く求められつつあるという点では共通しているといえます。

 最近、中国大都市の夜景が輝きを増したとの衛星情報をよく目にするようになりましたが、中国経済、特にナイトエコノミーが正常化しつつあるということが衛星情報から見て取ることができます。世界の夜景の照度は、国境なき新型コロナウイルスのまん延の濃淡を示しているということでしょうか。

 

IMFはプラス成長予測

 さて、天空の衛星には、地球に時々出現するブラックスワン(黒天鵝)とグレーリノ(灰犀牛)(注2)の活動状況も映し出してほしいものです。今年4月、中国国家統計局が発表した第1四半期の中国経済主要指標によると、前年同期比で国内総生産(GDP)成長率は、四半期別統計記録が存在する1992年以来初となるマイナス成長率(6・8%減)となりました。92年といえば、鄧小平が自ら提起した改革開放の加速を呼び掛けた南方講話を行った年であり、中国経済はそれ以来年率平均2桁に近い高成長を遂げ、その余勢は、今日、高質量(ハイクオリティー)成長へと受け継がれています。

 この点、国際通貨基金(IMF)は、今年の中国および世界の経済成長率をそれぞれ前年比1・2%増、3・0%減と予測しています。まだ、ブラックスワンとグレーリノの活動は止まっていないことが分かります。米ニューヨーク市ブロンクス動物園では、中国で百獣の王とされるトラも新型コロナウイルス検査で陽性となり乾いた咳をする症状が出たとか。新型コロナウイルスは感染場所、対象を問わず、実にしつこく厄介な感染症に違いないでしょう。ちなみに、同じく4月、胡潤研究院(毎年富豪ランキングなどを発表している定評ある在中シンクタンク)発表の「新型コロナウイルス感染症発生から2カ月間(1月31日から3月31日)の多国籍企業の資産の変化に関する特別報告」によると、世界トップ100社の経営者の資産損失は2兆6000億元(約40兆円、日本の緊急感染対策費の約37%)と膨大な額となっています。

 そんな中、中国経済は同1・2%増と、ほとんどの主要国のマイナス成長を予測している中でプラス成長を予測し、相対的に中国経済の強靭性が認められているようです。総じて、中国、東南アジア諸国連合(ASEAN)などアジア新興市場・途上経済体が世界経済の安定成長に大きく関わっていることがIMF予測から見て取れます。

 4月14日、北京で新型コロナウイルスへの対応策を協議するASEANと中日韓(10+3)の首脳による特別会議に出席した李克強総理は、「グローバル産業、サプライチェーンを安定させ、年内に東アジア地域包括的経済連携(RCEP)に調印し、より高いレベルでの地域経済一体化の実現を図る」と明言しましたが、まさに時宜を得た発言といえるでしょう。

 

大国の品格とソフトパワー

 新型コロナウイルスを論じる視点として、前世紀では1930年代の世界恐慌、今世紀では2008年に発生したリーマンショックとの比較が挙げられるでしょう。IMFは、新型コロナウイルスの影響で今年の世界経済は1930年代の世界大恐慌以来最悪状態になると予測、国連貿易開発会議(UNCTAD)は外国直接投資総額がリーマンショック以来最低になると予測しています。過去の二つの危機の最前線にいたのが米国でした。今回の新型コロナウイルスでは中国といえるのではないでしょうか。

 歴史的経済危機に対峙した時に求められるのは大国の品格とソフトパワー(文化力、対外好感度など)の発揮でしょう。この点、米国は第2次産業革命(電力を用いた工場での大量生産時代)と第3次産業革命(コンピューターを用いた機械の自動化時代)をリードし、圧倒的な経済力とアメリカンドリームを世界に発信し、国際経済ガバナンスの形成をリードしてきたといえるでしょう。

 では、デジタル経済の発展を大前提とする第4次産業革命期に入っている現在、大恐慌やリーマンショックを超える世界的経済危機といわれる新型コロナウイルス危機に中国はどう向き合うのでしょうか。この点、中国は次世代移動通信システム(5G)やオンライン・クラウドサービスなどデジタル経済を大胆かつ徹底的に展開し、各国・国際機関との連携を前面に押し出すなどの中国モデルを提示・実践してきたといえるでしょう。例えば、今年6月開催予定の第127回中国輸出入交易会(広州交易会、第1回は1957年、毎年春と秋の2回開催)をオンライン開催とし、また、オンライン教育、診察やテレワークは言うに及ばず、故人をしのぶ清明節ではオンライン墓参(今年は4月4日)、春らんまんのクラウド花見や観光など衣(医)・食(職)・住・行(観光など)・用(消費など)の日常生活でもデジタル経済化が急速に進みました。この点、上記国家統計局発表の経済主要指標によると、同期の固定資産投資が前年同期比で軒並みマイナスとなる中、ハイテク製造・サービス業で、①コンピューター・事務設備製造投資(前年同期比3・2%増)、②Eコマースサービス投資(同39・6%増)、③専業技術サービス投資(同36・7%増)、④科学技術成果転化サービス投資(同17・4%増)などデジタル経済建設関連投資が伸びていることは注目に値するでしょう。中国はデジタル経済で世界の最前線にあり、第4次産業革命の主役になりつつあるといっても過言ではないでしょう。

 

 

チャイナドリームの国際化

 アメリカンドリームという米国のソフトパワーが国際化を遂げ、国際経済社会における米国の好感度、プレゼンスの向上に大きく貢献してきたといえます。中国には「二つの100年の夢」(2021年、2049年)の実現というチャイナドリームがあります。その国際化は「今後に期待」ということになりますが、新型コロナウイルスへの対応を見て、国際経済ガバナンスに加えグローバルヘルスガバナンスの形成でも中国の貢献を期待する国・国際機関が増えたのではないでしょうか。

 最後に、そもそも新型コロナウイルスの「コロナ」は太陽コロナ(光の輪)などと宇宙と大いに関連しています。感染症の名称より、人類に夢を抱かせる宇宙開発プロジェクト名になってほしいものです。

 

注1 戦国時代の政治家、詩人である屈原の長編詩「天問」が出所。

 黒天鵝とはその発生がほとんど予想できず影響が大きい事象、灰犀牛とはその発生が予想されていても注意、対応を怠った影響大の事象。

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