日本人はクレーム、中国人は交渉

2018-04-28 09:46:10

                    文・写真=須賀 努

  日本人が中国でビジネスをするのは難しい、といったい何度聞いたことだろうか。理由は色々と挙げられるが、もし一言で言ってしまえば、日本人は中国人の行動や習慣をよく理解していないから」という意見が多いようだ。中国で何年も仕事をしている人でも、「中国人は何を考えているかわからない」などというが、その一方彼らを理解しようという努力を行っているだろうか。

もう数年前になるが、中国のある日系ホテルの支配人と話をしたことがある。彼によれば「開業に際して最も重視したのは従業員教育」だといいお辞儀の仕方や気遣いなど、日本式のサービスを徹底的に仕込んだらしい。勿論日系ホテルに勤めようという中国人従業員もその趣旨を理解して、一生懸命研修に励んだ。実際に筆者がそのホテルに泊まった時、その成果が十分に出ているなと感じたものだった。

サービスの行き届いた日系ホテル

ただ支配人は「日中にはどうしても理解できない、または理解はできても対応できない溝がある」と興味深い話を始めた。それは「もしお客様から何かクレームが出た時の対応として、日本ではまず『申し訳ございません』という言葉をよく使うが、中国人従業員は自分が悪いかどうかわからない状況では、絶対その言葉を口にしなかった」というのだ。そして彼らのマニュアルでは「日本人のお客さんからクレームが出たら、すぐに支配人など日本人スタッフに対応を任せ、逆に中国人からクレームが出たら、基本的には中国人従業員で対応する」となったのだという。

なぜそうなったのか。中国人従業員からは「クレームというのは何らかの目的があってなされるものであり、特に中国では相手の落ち度に対して、何らかの見返りを求めることが多い。そのため、初めから『申し訳ない』などと言えば、相手はどんどん調子に乗って攻めてくるし、もし日本人支配人などが出てくれば、自分の主張の正当性も高まり、より一層要求をしてくれるのだ」と説明されたという。

一方「中国人従業員には、日本人客が一体何のためにクレームしているのか最終的に理解できないのだ」と言われてハッとした。中国的対応をして、例えばお詫びにお食事券や無料宿泊券を提供してようとしても「俺はモノが欲しくてクレームしているではない」と更に怒ってしまうケースも多いらしい。こうなると中国人にお手上げだ。

いま日本は「クレームブーム」であり、クレーマーと呼ばれる人々が、どこかに少しでも落ち度があれば、様々なことに対して、日々文句を言っている。しかもそれは昔風に言う「実にけしからん」という話であって、もしそこでクレームされる側が強い態度に出れば、火に油を注ぐこととなり、益々事態の収拾が難しくなる。日本人は実利よりも感情、いや実利と感情が混ざっているのでややこしいのだと思う。

だから、まず「お客様の言っていることはもっともだ」という意味で「こちらに落ち度があり申し訳ない」と言えば、相手の態度が和らぐ。そして上席の者が丁寧な対応で相手のプライドを尊重し、話を聞く態度を持てば解決が近づくのだ。勿論中国人でも単純に怒っているだけの人もいるだろうが、いずれにしてもその解決策、納得させる方法は日中で異なるということだ。

中国を旅していると時々飛行機が遅れることがあるが、すぐに航空会社から飲み物や食べ物が配られるのには驚く。日本人なら「いつ出発できるのか」とイライラするだけが、中国人は食べ物で一度落ち着くという考え方らしい。こういう対応策も中国らしいが、偶に要求がエスカレートしたり、国外で同様のサービスを求めてトラブルになるケースもあるから注意が必要だ。

飛行機の遅延ですぐに出された弁当 

中国関連のビジネスをしている時に偶に感じたことは「ビジネスや相手との交渉を中国人はゲーム感覚でやっている」ということだった。決してゲームをしている訳ではないと思うが、様々な手を駆使して、相手の弱点を突いていく、と言えば、ゲームに勝利する常套手段ではないだろうか。だから前述のクレームなども、「相手の出方を見ながら攻撃してみる」という感覚の場合も多いのでは、と思ってしまう。

日本人は「自らが不愉快であることを相手にも認めさせること」など感情論でクレームする場合が多く、中には振り上げたこぶしを下ろす場所が無くて、困っているケースすら見掛ける。こうなるともうクレームされた方が可哀そうだ、というべきかもしれない。一方中国人のクレームは交渉であり、当然その落としどころも探りながら行われるので、ある意味で安心できる、と言ったら言い過ぎだろうか。

人民中国インターネット版

 

 

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