順序

2020-10-26 16:21:58

 

余人=文

鄒源=イラスト

あ~あ、なんてことだろう。杭州の大学にやって来てまだ3カ月余りだというのに、寒気が何度もやって来て、明日も来るという。なんてこった! 寮の部屋で天気予報を聞いていた大学生はいまいましげに考えていた。

「そうだ、彼氏は武漢の大学に通っているけど、杭州と武漢の緯度はほとんど変わらないというから、彼もまた寒気の影響を受けるだろう。そう、電話して彼に言わなきゃ」と大学生は考えた。そこで机の上に置いていた携帯電話を取って番号を押した。

「もしもし、剛くん?」

「何か用? いま試験で忙しいんだけど」

「ああ、明日寒気が来るそうだから、厚着してねって言おうと思ったの」

「寒気? それはないよ。こっちは明日は晴れで、気温もまあまあだってよ。間違ったんじゃないの? もし寒気が来ても大丈夫さ。寮にはとっくにエアコンが備え付けてあるから、夏は涼しく冬は暖かく、快適だよ」

「そう、じゃあいい、分かった。勉強頑張ってね」大学生は少しがっかりしながらも、考え過ぎた自分が悪いと思った。

携帯電話を切ると、今度は内蒙古に行った同級生のことを思い出した。あそこなら影響を受けているだろう。北はとても寒いはずだ。

大学生はまた携帯電話を手にした。しかし、今回は電話ではなく、ショートメールにしておいた。長距離電話は高いから、彼にならいいけど、同級生ならショートメールだ。それなら1通1角(1元の10分の1)しかかからない。「梅ちゃん、内蒙古で勉強、大変でしょう。明日寒気が来るそうだから、高校時代そそっかしかったあなたは、暖かくしているよう気を付けてね」

間もなく、相手から返事があった。「この寒気はとっくの昔にそっちに行っているよ、あなたもこの寒気がどこから来たか考えたことあるでしょ? でも寒気が来ても怖くないもん。もうとっくに暖房が入っているし。へへ、うらやましいでしょ。もっと大きな出来事があって、ボーイフレンドができたの。フフフ、心は温かいんだ」

大学生はこのショートメールを見て、苦笑せざるを得なかった。

1時間ほどたった後、携帯電話が鳴った。大学生が慌てて走り寄って電話を取ると、母からだった。「お前、明日は寒気が来るんだって。こっちはもう零下4度だよ。暖かくしているんだよ、分かった? わが家の子どもはお前だけなんだし、しっかり努力して大学院まで行きなさい。そうそう、お父さんのひざの関節症が再発したから、今年は収穫物を売ってエアコンを買おうと思うの。お前はしっかり自分を大切にして、家のことは気にしなくていいからね」

大学生は一言も口を挟めなかった。なぜなら彼女は涙を流していたからで、突然、自分がまず親を気遣うという、人としての順序を忘れていたことに気付いたからだ。

 

翻訳にあたって

中国は国土が広いために、気候も暖房事情も土地ごとに異なる。北京などの北部にある都市では、冬の寒さが厳しいために、11月~3月頃まで、建物全体にセントラルヒーティングが入り、室内はとても暖かく保たれている。むしろ上海や杭州などの南寄りの都市のほうが、暖房設備が整っていないため、部屋の中は寒くて過ごしにくい。

中国では大学生のほとんどが寮暮らしをすることも、日本とは異なる部分だろう。また、9月入学であるため、入学すると寒さに向かうことなど、日本人には実感として少し分かりにくいかもしれない。

多穿点衣服(服を多めに着て)」や「注意点保暖(暖かくして)」などの相手の体を気遣う言葉は、体の冷えを嫌う中国人ならではの言い方といえる。 

(福井ゆり子)

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