世界経済回復の「呼び水」に ポスト・コロナの中国市場に期待

2020-06-15 14:15:22

陳言=文

 例年、春から夏への変わり目の北京の風物詩といえば、うるさいほど飛び交う柳絮(白い綿毛のついたヤナギの種子)だが、今年はほとんどの北京住民が見過ごしたのではないだろうか。筆者も2、3月はまるまる家に閉じこもった。4月になって市内を囲む第4環状線を南から北へドライブした時、時速50㌔も出せればかなり速いと感じるほど、北京の交通はいつもの状態に戻っていた。

 郊外にドライブすると、道路脇の芝生に柳絮が積もっているのが見える。今年は例年より厚く、まるで綿布団を掛けているようだ。突然、今年は柳絮のことなどまるで忘れていたことに気が付いた。外出時にはマスクをしているので、柳絮の煩わしさを感じず、そもそも、長いこと外出せず部屋に閉じこもっていたので、柳絮などはすっかり念頭になかった。

 中国経済は1月下旬からかなり停滞したが、3月中旬になると次第に始動し、4月には基本的に正常な状態に戻った。しかし、国外と中国は新型コロナウイルスの感染拡大には時間差がある。欧州と北米が相次ぎ感染拡大し、とりわけ米国は初動の大きな判断ミスが災いし、感染者数は100万人を超えた。5月以降、インドや東南アジア、アフリカ、南米への感染拡大を食い止められるか否かが、全世界の喫緊の問題になっている。感染症拡大によって大きな影響を受けている経済を、まず強力な力によって感染症の束縛から解き放ち、発展の軌道に戻さなければならない。

 

中国だけがプラス成長予測

 国際通貨基金(IMF)は4月14日、2020年の世界経済に対する予測レポートを発表した。レポートは、世界経済の成長率が昨年の2・9%からマイナス3・0%に下落すると予測した。この発表時点では、米国の感染拡大は制御可能であり、よもや科学技術で名高い米国で、感染者数が4月以降100万人を超え、死者が8万人に達するとは、思いも寄らなかった。

 IMFによる主要国の昨年の経済成長率と今年の同見通しは以下の通り。中国6・1%→1・2%、米国2・3%→マイナス5・9%、日本0・7%→マイナス5・2%、イタリア0・3%→マイナス9・1%。主要国の中でプラス成長を確保できるのは中国だけ、という予測だ。

 経済成長と各国の感染症対策の真剣さ、選択した手法は密接な関係がある。感染が明るみに出ると、中国は直ちに1月23日から武漢市を都市封鎖(ロックダウン)することを決定し、ウイルスを武漢市(湖北省)の外へ拡大させない対策を打ち出した。世界の主要工業国の医療条件と比べ、比較的遅れている中国は、全ての力を結集して武漢(湖北省)の治療態勢を強化。ついに3月10日前後、新型コロナウイルスの感染拡大をほぼ食い止めた。

 中国がこうして基本的に感染拡大を制圧した後の3月中下旬から、世界各国で、しかも同時多発の様相を呈して感染が拡大した。こうした国々は、自国の医療体制が崩壊する可能性があるにもかかわらず、準備不足だった。米国やスペイン、イタリア、フランスなどの国々の感染者数は、中国の数倍ないし十数倍に達した。たとえかなり医療条件が整っていたとしても、新型コロナウイルスの感染対策は難問山積みだった。

 新型コロナウイルスの感染拡大が長期化すれば感染者はさらに増え、中国を手本に進めている世界各国の経済成長の予測は、実際の結果とかなり差が出る可能性がある。今年の米国の経済成長率は、マイナス5・9%を下回る可能性がある。感染範囲が広がれば広がるほど、世界経済の成長速度は下落スピードを増す。

 そう考えると、中国のプラス成長予測は実に得難いものだ。

 

苦難から再生する中国経済

 古代エジプトにも中国にも不死の火の鳥(Fenice、不死鳥)あるいは鳳凰の伝説がある。日本のマンガにも火の鳥、鳳凰が苦難を経て生まれ変わる物語がある。

 この2、3月はまるまる、さらに4月も大部分の中国人は家に閉じこもり、そのライフスタイルは新型コロナウイルスによって大きく変わった。今年の中国経済も昨年と比べると、さながら隔世の感がある。

 中国ではスマートフォンは数百元(数千円)で買え、今では感染症対策で居住区の出入りに提示するセキュリティー機能QRコードも搭載され、買い物時の支払い、世間話、振替や祝儀を送る際の必携ツールだ。スマホの普及によって、電子商取引(Eコマース)は全ての消費者の家に浸透している。この時期、街の商店はまだ営業できないところもあるかもしれないが、街を走り回る宅配便の電動三輪車は前年に比べて増えている。商品は工場から直接消費者の手元に届けられ、野菜は畑から、出来立ての食事もレストランから消費者のリビングまで配達される。

 企業側にも大きな変化が起きている。遠く離れたところにあるサプライチェーンでも、交通遮断の影響を受けずに時間内に配達できる。サプライチェーンの空白を迅速に埋めるために、地域に整ったサプライチェーンを構築することが、地方経済の新たな需要となり、そのための投資・拡張・整備などの事業が経済回復の重要な部分になる。こうした整備された地方のサプライチェーンは、経済運営のシステムを大きく補強する。感染症のヒト・ヒト感染を遮断・消滅させ、一方でサプライチェーンの穴を埋め、物流速度を加速したため、中国経済は世界に先駆けて回復に向かった。

 中国経済は不死鳥のようによみがえる。中国の新型コロナウイルスの感染防止・抑制対策は、世界の参考となる手法を提供した。経済の回復に際しても、同じように世界が明るい将来を見られるように貢献するだろう。

 

安徽省合肥市のハイテク産業開発区にある合肥長安自動車会社の工場では、マスクをした従業員が操業再開した生産ラインに立つ(新華社)

 

中国企業も対外連携が必要

 数十年前、筆者が下放された父親と一緒に農村に行ったとき、農民が家にいつでも水を少し残しておくのに気が付いた。かんがい用の水が不足すると、この少量の水を揚水ポンプに注ぎ、ポンプを数回押すと水をくみ上げることができた。もしこの「呼び水」がなければ水はくめない。

 新型コロナウイルスによって世界の大部分の地域で経済は停滞し、欧米日は深刻あるいは極めて深刻な感染症の拡大に直面した。中国経済が真っ先によみがえれば、世界経済を正常な状態に引き戻す「呼び水」の役割を果たすに違いない。

 中国国内市場の拡張と世界のマクロ経済の正常化は、中国経済が新型コロナウイルスの桎梏を打破し、前進を再開する車の両輪だ。日本など各国企業は、ポスト・コロナ時代の中国市場の変化を生かし、中国市場を共有することが十分考えられるだろう。中国側も、次世代移動通信システム(5G)や人工知能(AI)、医療・高齢者介護の分野で、外国企業との提携を継続的に拡大する必要がある。

 中国経済が速やかに正常な軌道に戻ることで、中国経済自体が世界経済の回復の「呼び水」の役割を果たすことができる。そうなれば、将来の国際経済・社会に希望を与えることだろう。

関連文章