中日間の技術移転と共創
9月20日から23日にかけて、2025年世界製造業大会が安徽省合肥市で開催された。開催期間中には中日企業のマッチングイベントも催され、筆者は中日の技術協力を見学する機会を得た。
関連会議の準備に当たり、筆者は複数回にわたって合肥市を訪れた。包河区の街並みを歩いていると、様相が大きく変わっていて、まるで初めて訪れた場所のような感覚を抱く。また、道路がとても広く、道の両側には新たに建設中の多くのビルが見られる。通りに立ち並ぶ建物は高く整然としており、かつてのような乱雑さはまるでない。さらに、高くそびえる建物の下には、三輪自動車を改造したケータリングカーが豊富なグルメを満載していて、深夜になっても灯りは消えることなく、グルメ好きの人々でにぎわっている。ここでは社会が安定し、経済も順調に成長を遂げている。

合肥市の街並みを歩いていると、中国の他の内陸都市と同様に、2020年以降に現地で生じた非常に大きな変化を顕著に感じられる。あまたの内陸都市は、ここ数年で容貌が大きく様変わりした。そのような変化の要因としては、先行して発展を遂げた東部沿海地域が、次第に中西部の経済に波及効果をもたらしたことが大きい。だが、中西部の発展モデルは、必ずしも東部地域と同じではないことに留意すべきだ。
東部沿海地域の省が過去30年間余りの間に日本や米国から技術を導入し、それらの国々との経済関係を強化し、先んじて発展のチャンスをつかんだ一方、内陸地域の省・自治区・直轄市は自主革新の道を歩み、西や南へと発展の新たなルートを切り開いた。自主革新や内需拡大、「一帯一路」沿線諸国との貿易・投資関係の強化などは、中西部の経済発展の新たな特徴となっている。なお、今回合肥市で開催された世界製造業大会には、東部沿海地域の展示会と比べてより多くの「一帯一路」沿線諸国が出展していたことも付記しておきたい。
製造業とIT技術を擁する中国の産業
海外からの技術の導入によって実現した中国の技術革新は、1970年代に中国が経済発展を成し遂げた重要な要因だった。78年の改革開放の開始以降、中国は日本から現代的な鉄鋼技術を導入し、90年代からは同じく日本から家電生産技術を導入した。2000年以降、日本の自動車技術が本格的に中国に入ってきた。そして現在、中国は鉄鋼と家電分野の生産規模で日本をはるかに上回っている。また、中国の技術力はガソリン車の分野では日本を超えるには至っていないが、20年以降、動力電池や電気自動車(EV)の生産規模および特許保有数で日本を上回り、新たな道を歩んでいる。
00年前後、米国のITプラットフォーム技術は中国に極めて大きな影響を及ぼした。それを契機に生まれた中国のITプラットフォームであるBATH(百度・アリババ・テンセント・ファーウェイ)は、米国のGAFA(Google・Amazon・Facebook[現Meta]・Apple)と異なる点はあれども、おおむね似たような特徴や機能を有している。現在のところ、BATHはGAFAのように世界を席巻するまでには至っていないが、中国国内ですでに整ったシステムを築き上げており、今後世界を舞台に米国のビッグテックと互角に渡り合ってゆくだろう。
中国は整った製造技術とITプラットフォームを有し、それによって人工知能(AI)分野で完全に自国の技術で成り立つエコシステムを築き上げており、この点は製造業に専念してきた日本やIT・金融に強みを持つ米国と異なる。今回の世界製造業大会から分かるのは、中国の製造業はIT技術と密接に結び付き、中国経済の長期的発展を支えているということである。一方、日本はここ数年、AI分野で主に米国に投資を行っており、日本が今後、他国に頼ることなく製造業へのAI導入を実現できるかどうかは不透明だ。
昨年、米国の製造業の付加価値は国内総生産(GDP)の約10%を占めるにとどまり、ITおよび金融業がますます強くなる中、米国政府は産業の国内回帰を呼び掛けた。だが、実際には米国の製造業の衰退を止め、再興を成し遂げるのは困難だ。
自主革新の新たな段階
日本企業が今後、ITやAI分野で世界をリードする新たなプラットフォームを立ち上げるのが難しく、米国企業はITと金融業が強すぎることにより、製造業分野で強靭なサプライチェーン体系を確立することが見込めないのだとしたら、製造業とIT・AIの技術を持っている中国企業は持続的に発展を遂げていくだろう。
中国国内の報道によると、今年10月に開催される中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議(四中全会)では、科学技術のイノベーションによる新たな質の生産力の発展のけん引が大きな議題になるという。具体的には、中国はイノベーション駆動によってボトルネックとなっている技術の難関攻略を進める。そのためには、科学技術の自立自強をこれまでにない戦略的高みにまで引き上げ、鍵となるコア技術分野でのブレークスルーの達成に集中的に力を注ぐ必要がある。加えて、中国は産業レベルを全面的に向上させ、主にAI、新エネルギー、バイオマニュファクチャリングを含め、新たな成長エンジンをつくり上げていく。
新たな目標を提起し、着実かつ具体的に計画を推進することと、中国企業が擁するエンジニアや大学などの研究機関の研究開発スタッフの人数、今後イノベーションを担ってゆく人材予備軍の間には非常に大きな関連性がある。教育部が発表した関連データによると、今年中国の大学や大学院などの卒業者は1222万人に達し、そのうち修士課程修了者が占める割合は8・6%、博士課程修了者はおよそ0・8%から1%となった。中国では、年間に新たに誕生する修士・博士課程修了者が100万人を超えており、これは日本における年間の学部卒業生(今年は約56万人)を上回る人数で、中国は自主的イノベーションを進めるための良好な基盤を備えていることが分かる。
中日の共創戦略
マクロ的背景と既存の基礎から見て、中国は持続的に伸びてゆく技術革新力を備えているが、依然として海外、とりわけ日本から謙虚に学ぶ必要がある。
ここ数年、日本への観光、留学、投資がブームとなっている。中国の人々は経済力を持つようになった一方で、中国企業は日本への投資を通じて日本企業を観察し、その中から学びを得ている。今年、日本を訪れる中国人観光客が通年で再び1000万人を超え、日本で学ぶ中国人留学生は12万3000人を上回り、過去最多となる見通しだ。日本中華総商会の沈高平副会長は、「日本への観光、留学、投資の面で、中国には巨大な新しいニーズがある」と考えている。
中日企業のマッチングイベントから分かるのは、中国の自主革新は日本企業との共創を必要としているということだ。中国の中部地域で経済が飛躍的に発展し、「一帯一路」沿線諸国との貿易が持続的に拡大し、企業は技術向上をいっそう求めており、関連技術の開発と活用において、中日企業の連携と協力に新たな機会が生まれている。
中国企業はもはや単に日本から技術を導入するだけではなく、中国の人材と資本を日本に投入し、中日間の共創という新たな道を進んでいる。
陳言(Chen Yan)
日本企業(中国)研究院執行院長。1960年生まれ、1982年南京大学卒。中日経済関係についての記事、著書多数。