必要としている人へ 中国からのマスク贈呈式

2020-06-23 17:32:12

于文 王朝陽=文

援けあい  

コロナウイルス  なんのその

海を隔てつ  心一つに

           (劉徳有)

互助情义真。

新冠逞凶何足惧,联手驱瘟神。

你我虽隔衣带水,共斗顽疫心连心。

                  (王衆一 訳)

 

 上記の短歌と共に中国から送られてきた小包が、人民中国雑誌社東京支局に届いた。中国製のマスク1000枚が詰まった段ボール箱。上海在住の楊熹さんが四方八方手を尽くして集め、「今、マスクを一番必要としているところに差し上げてください」と人民中国雑誌社に託したものだ。マスクは、長年協力関係にある神奈川新聞社の助力で、神奈川県の老人ホームに贈られることとなった。新型コロナウイルスの感染拡大を受けて日本政府が東京都や神奈川県などに「緊急事態宣言」を発令した4月7日、ささやかな贈呈式が神奈川新聞社で行われた。

 

雪中に炭を送る

 老人ホーム施設長の閑野義則さんが代表してマスクを受け取った。日本では感染が加速して、マスクは日を追うごとに購入が難しくなっているが、一衣帯水の隣国である中国からの物的援助が次々と寄せられている。確かに倉庫いっぱいの物資と比べると、一箱限りのマスクなど取るに足らない量なのかもしれない。しかし閑野さんの言葉は、1000枚のマスクがいかに貴重かを十分に感じさせるものだった。

 「ホームには106人が入所していますが、高齢者や持病がある人など、新型コロナウイルスの重症化リスクが高い方ばかりです。マスクは飛沫感染防止に有効ですから、老人ホームには最も必要な物資です。しかし感染拡大が長引くにつれ、入手がますます困難になっているのです」と窮地を語る。

 入所者はホームから外出しないから、感染リスクは低い。しかしスタッフは毎日公共交通機関で出勤するため、1人が感染すれば院内感染を引き起こし、想像を絶する状態となる。閑野さんのホームも日本の他のホーム同様、スタッフにもマスク着用が義務付けられている。「新型コロナウイルスの感染拡大が始まってからは、工場にマスクを発注するのが非常に難しくなりました。現状ではスタッフの着用が精一杯で、入所者はノーマスクの状態なのに、それでも毎日50枚以上が消費されます」と語る閑野さん。「マスクは単なる予防用品ではありません。命を守る壁です」と声を詰まらせた。

 

「三密」に配慮し、神奈川新聞社での贈呈式は少人数で行われた (写真・南部健人/人民中国)

 

ビデオ通話で「ありがとう」

 式の途中、微信(ウイーチャット)のビデオ通話機能でマスクを贈呈した楊さんと会場をつなぎ、出席した日本人と楊さんとの交流を試みた。

 閑野さんが「今、世界のマスク製造の半数は中国に頼っていると聞きます。全世界が中国のマスクを必要としている状況下に、私たちにマスクをお贈りいただき本当にありがとうございます。大切に使わせていただきます」と楊さんに感謝した。それに対し楊さんは「京都に留学していた娘が受けたさまざまな親切に応える機会がようやくできました。最もマスクを必要としている日本の人々が、マスクの大切な役割を分かってくれたことがうれしく、到着に気をもんだ1カ月の緊張がようやくほぐれました。ウイルスがまん延している間は少しでも力になりたいです」と話した。

 

マスクを受け取った老人ホームの責任者と寄贈者の楊熹さんは、スマートフォンによるビデオ通話で直接会話を交わした (写真・南部健人/人民中国)

 

手を携え助け合う

 元中国文化部副部長の劉徳有氏は、楊さんが人民中国雑誌社にマスクを託したことを知って2首の短歌を詠み、それを王衆一本誌総編集長が「漢歌」に翻訳した。冒頭の1首は「海を隔てて心を通わせる」という隣国への愛情と「手を携えて疫病を追い出す」ための勇気を表している。そして、次の1首は楊さんの情熱を余すことなく伝える作品となっている。

 

温州の  送りしマスク  

気持ちだけ   コロナ退治の  

願いは一つ

             (劉徳有)

吾乃温州人,急送口罩宣慰问,

推己及邻人。风月同天心通心,

中日携手送瘟神。

          (王衆一 訳)

 

 楊さんのマスクが無事に「最も必要としている人」のところに届けられたのは、神奈川新聞総合サービスと『人民中国』の昔からの読者である田中誉士夫さんの助力あってのことだった。中国で新型コロナウイルスの感染が爆発的に拡大しているさなか、田中さんは神奈川県日中友好協会の会員に募金を呼び掛け、助けを求める中国からの声に応えて東奔西走し、寄付を着実に行ってきた。

 災難時の両国の助け合いに対する橋渡しといえば、12年前の出来事を思い出す。北京五輪が開催された2008年の5月12日、四川省で大地震が発生した時のことだ。田中さんの提案で神奈川新聞社が広く募金を呼び掛けたところ、短期間で1000万円を超える寄付金が集まったのだ。田中さんは株式会社かなしん広告の鴇田要一社長(当時)と共に北京に赴き、人民中国雑誌社経由で四川に義援金を送った。

 中日両国の災難に際したメディアの役割は、両国が協力して難関を切り抜けるさまの記録者であり、両国の懸け橋として相互支援に関わることでもある。しかし、マスク贈呈式で田中さんに何度かコメントを求めたが、田中さんはただ笑って「皆さんありがとう」と言うばかりだった。

 神奈川新聞総合サービスの瀧村誠社長は今回の贈呈について、「箱にこのような美しい慰問の言葉が書かれているとは思いませんでした。短歌と漫画は人の心を和ませるものですね」と感動と感謝を語った。贈呈式に参加した松尾工務店の朝倉勲課長は、上海の楊さんとのビデオ通話で交わされた会話に感動したと言う。「寄付があったという話はよく聞きますが、どこに寄付されたのかが分からないし、受け取った人への取材はほとんど見受けられません。今日は中国と日本をビデオ通話で結ぶことで双方の顔合わせができ、温かい思いになりました。これが本当の国際交流だと思います」と贈呈式の意義を語った。

 

本誌2008年11月号は、神奈川県が四川・汶川大地震の際に募った義援金を人民中国雑誌社経由で被災地に渡した際の記事を掲載

 
関連文章