上野の双子パンダ・シャオレイに託す希望の花束
遠藤英湖
シャオシャオとレイレイ(撮影:高氏貴博)
東京・上野動物園の双子のジャイアントパンダ、雄の「シャオシャオ(暁暁)」と雌の「レイレイ(蕾蕾)」。ファンは親しみをこめ、セットで「シャオレイ」と呼ぶ。
シャオシャオとレイレイ(撮影:高氏貴博)
師走のニュースはまさに「寝耳に水」だった。返還期限の2月まで上野にいてくれると思っていたシャオレイが、なんと1月下旬に中国に帰国するというのだ。多忙でしばらく会えていなかった私は、迷うことなく始発電車で動物園を目指した。
早朝から開園を待つパンダファン(2025年12月)
5時の上野は真っ暗で心細かったが、同じ方向に足早に向かう人の姿を見つけてホッとする。動物園前の冷たい地面に皆と一緒に座って開園を待ちながら、シャオレイが幼かった頃、白黒の果実のように木の上に留まっていた姿や、お母さんパンダのシンシン(真真)に甘えながら二頭でじゃれ合っていた姿などを懐かしく思い出した。

木の上のシャオシャオ(撮影:高氏貴博)

ニンジンをかじるレイレイ(撮影:高氏貴博)
夜明けを告げるお寺の鐘が鳴り響き、徐々に周囲が明るくなってくる。不忍池のほとりにはすでに整然とした長蛇の列ができていた。
何時間も待って久しぶりに会えた皆の宝物は、前より少し大人びて、まばゆい白さと漆黒の体毛のコントラストが美しい立派なパンダに成長していた。頭と耳を大きく動かし、つかんだ竹を喰(は)む生き生きとした姿。私はそのすべてを心に刻もうと、瞬きもせずじっと見つめた。

竹をくわえるレイレイ(撮影:高氏貴博)

“お庭シャオシャオ”(撮影:高氏貴博)
凛とした冷たい空気に、澄み渡る真冬の青空。凍てつく寒さの中、やっと会えた達成感と高揚感。しかしホッとして緊張の糸が切れた途端、心の中で静かに涙が溢(あふ)れてきた。彼らのお姉さんパンダ、シャンシャン(香香)帰国時の切なさを再び味わわないため「この愛らしい双子には絶対ハマるまい」と努力してきたにもかかわらず…。別れが近づき、シャオレイのグッズや写真集を買い集めに上野の街を走り回る自分がいた。

書店に積まれたシャオレイの写真集
ところで、日本には「デザートは別腹」という言葉がある。「満腹でもデザートならまだ食べられる」という意味だ。パンダ好きな人にとって「パンダは別腹」、いくらでも食べられる甘いデザート。中国が好きでも好きでなくても、たとえ興味がなくともパンダなら大歓迎。もしそうだとすれば、あの白黒の丸いフォルムの中には、日中の人々の心を繋ぐとてつもなく大きな可能性が秘められているのではないだろうか。

動物園で大人気。シャオレイのデザート
「推し」のパンダが次々と故郷に戻る中、日本のパンダファンは「パン活(パンダの推し活)」の場を中国の四川省にまで広げた。かつては馴染みがなかった雅安(があん)や都江堰(とこうえん)などの地名まで日本でも日常的に耳にするようになり、毎日のようにファンの誰かが現地を訪れ、SNSで発信している。日本から帰国したパンダの様子を日々、日本語で発信してくれる「シャンシャンの家」などの現地のプラットフォームもある。また、日本国内でも両国の人々が一緒にパンダイベントを開催するなど、様々な形の新しい日中交流が生まれている。

日本のパンダファン
中国でも空前のパンダブームが起きている現在、日中間でより積極的な「パンダ交流」を行うことが今後大きな意味を持ってくるのではないだろうか。人と人は、好きなことを通してあっという間に仲良くなれる。互いに親しみを感じ、相手に関心を持つことが相互理解につながっていく。「パンダ」が日中の人々の心を繋ぐ精神的な「共通語」になりうると信ずる。

日本のパンダファン
深き夜の先には暁があり、冬のあとには必ず春が来る。日中の人々の間の小さな蕾が大輪の花と開き、真の友情が馥郁(ふくいく)と香ることを願い、志を同じくする両国の仲間とともに、私はこれからも微力を尽くしていくつもりだ。※

上野動物園の職員からシャオレイに贈る言葉
もうすぐ新天地に旅立つシャオレイに未来への希望の花束を託したい。私たちにたくさんの喜びをもたらしてくれたこの愛くるしい白黒の天使たちの幸せを祈りつつ…。
※「上野パンダファミリー」の思い出を永遠に留めるため、作者は本作品に5頭それぞれの名前の一字をちりばめました。双子:シャオシャオ(暁暁)とレイレイ(蕾蕾)、姉:シャンシャン(香香)、母:シンシン(真真)、父:リーリー(力力)