コロナ下でも「一帯一路」成長
胡必亮=文
胡必亮
北京師範大学一帯一路学院執行院長、教授(経済学)、博士課程指導教員、「一帯一路」国際シンクタンク協力委員会理事。
新型コロナウイルス感染症の感染拡大以来、国際社会は中国が提唱し、積極的に推進してきた「一帯一路」の建設と発展の状況に高い関心を示している。中には、「一帯一路」の債務問題に関心を示す人もいれば、「一帯一路」の発展途上国の石炭発電所建設プロジェクトへの投資に注目する人もいる。欧州のメディアには、昨年の中国の「一帯一路」への投資が大幅に減少したと報じるところさえあった。新型コロナ下の「一帯一路」の発展の状況とすう勢は果たしてどうなっているのか。
投資規模が大幅に拡大
昨年の中国の「一帯一路」沿線諸国の非金融分野の直接投資総額は177億9000万㌦に達した。2019年の150億4000万㌦と比べ、昨年の投資規模は縮小どころか、むしろ27億5000万㌦、18・3%増加した。それに伴い、中国の「一帯一路」沿線諸国への投資が対外投資総額に占める割合も、19年の13・6%から昨年は16・2%に上昇した。
13年の秋に「一帯一路」イニシアチブが打ち出されて7年余り。中国の「一帯一路」沿線諸国の非金融分野の直接投資は1047億2000万㌦に上り、年間平均の投資額は149億6000万㌦に達した。
これらの事実が証明するように、新型コロナによる不利な影響にもかかわらず、昨年は同イニシアチブの提起から7年で中国の「一帯一路」沿線諸国に対する非金融分野の直接投資が最も多い1年となった。
プロジェクトの面から見ると、新型コロナの世界的な大流行が始まった初期段階では、一部の「一帯一路」建設プロジェクトは確かに一時的に操業停止を余儀なくされたが、そのほとんどはすぐに再開された。それだけでなく、感染拡大の状況が最も深刻だった時期においても、中国は関係諸国と協力して、たとえばハンガリー―セルビア鉄道のハンガリー区間や、パキスタンのコハラ水力発電所などの新たな建設プロジェクトをスタートさせた。
また、中国の企業は昨年、日本とフランスの企業とカタールで初の非化石燃料充電ステーションを建設する契約や、ウガンダと太陽光発電所を建設する契約を結んだ。
要するに、中国が関係諸国と「一帯一路」を共に建設する決意は確固たるもので、感染症やその他の突発的なことの影響を受けても変わることはない。中国がサウジアラビアやエジプト、ハンガリー、カンボジア、フィリピンなどの国々と共に多国間金融協力センターを立ち上げ、第三国市場でのより大きな協力の可能性を積極的に切り開くにつれ、中国と関係諸国の「一帯一路」建設プロジェクトへの投資は全体的に増え続ける勢いを見せている。
インドネシアのジャカルタ-バンドン間の高速鉄道線3号トンネルの開通を祝う中国の工事チーム。同プロジェクトは中国側が工事を請け負ったインドネシアの国家戦略プロジェクトであり、「一帯一路」イニシアチブのシンボル的な事業だ。同高速鉄道は全長142.3㌔、設計速度は時速350㌔。全線の開通後、ジャカルタからバンドンまでの所要時間は現在の3時間余りから40分へと短縮される(昨年4月26日、新華社)
参加国に債務危機なし
「一帯一路」イニシアチブが打ち出されて以来、中国は確かに一部の沿線国に対する資金面の支援を増やしているが、最初から以下の三つの基本原則を貫いてきた。
一つ目は、共に協議し、共に建設し、共に享受することを徹底する。関係諸国と共に建設プロジェクトとその資金調達について討議し、いかなる国のいかなるプロジェクトの建設も強制せず、また決して中国からの融資を強制しない。
二つ目は、市場による主導と企業が主体となることを徹底する。中国企業と関係諸国の企業は、市場原則に基づいてプロジェクトの協力を行い、プロジェクトの資金も主に企業が多元化した国際融資やPPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ、官民連携)融資などを含む国際資本市場から調達したもので、政府間の直接の借入金は少ない。
三つ目は発展志向を徹底する。建設プロジェクトの選択は全てその国の発展戦略の必要に基づいて決め、プロジェクト完成後にその国の経済・社会の発展促進に重要で建設的な役割を果たせるよう確実に保証する。
従って、「一帯一路」の共同建設に参加したことで債務危機に陥った国は世界で一つもない。一部でよく取り上げられるスリランカのケースでも、同国の指導者が少し前に公言したように、同国の対中債務が自国の対外債務全体に占める割合はわずか12%で、しかも主に低金利の優遇融資だ。
スリランカのハンバントタ港の建設プロジェクトについて言えば、中国企業が一定の資金を出し、市場ルールと公正取引の原則に基づいて同港湾の株式の70%を取得したことと、港湾とその周辺の土地を借りて工業団地を建設したことは、典型的な市場原理に基づく行為であり、政治化されるべきではない。
中国は「一帯一路」を共に建設する構想を打ち出してから、債務の持続可能性問題を特に重視してきた。中国は「一帯一路」沿線の26カ国と協議し、17年に「『一帯一路』融資指導原則」に調印。また19年に中国財政部は「『一帯一路』の債務持続可能性に関する分析枠組み」を発表。債務リスクの管理能力と建設プロジェクトの経済効果の向上を図るため、「一帯一路」プロジェクトの債務持続可能性分析のプロセスと基準や、プロジェクト実施国の債務リスク分析、債務負担能力におけるストレステスト、債務リスク管理などに対する詳しい分析枠組みを打ち出した。
期限通りに債務を返済するのが困難な国に対して、中国はこれまで友好的に協議する方法で問題を解決してきた。中国政府は昨年、アフリカ関係諸国への20年末に期限を迎える無利子貸付の返済をすでに免除している。さらに、新型コロナが発展途上国の債務に与える影響を軽減するため、中国は主要20カ国・地域(G20)の債務返済猶予措置を積極的に実行し、返済猶予総額は13億5300万㌦に達した。これは、G20の債務返済猶予総額の約27・5%を占め、G20の中で最も貢献の大きい国だった。
エネルギー転換を推進
これまで中国と共に「一帯一路」を建設してきた国のほとんどは、経済の発展が相対的に立ち遅れた国だ。「一帯一路」沿線諸国の1人当たりの発電設備容量は0・5㌔㍗にすぎず、1人当たりの消費電力量は年間2000㌔㍗時に満たず、世界の平均レベルをはるかに下回っている。
これらの国で発電所を建設し、電力の供給力を高めることは、その国の経済発展の促進と国民生活の質の向上に極めて重要な役割を果たすだろう。そのため、「一帯一路」の国際協力において、エネルギーインフラの建設は重点事業となる。中国・パキスタン経済回廊の建設プロジェクトを例に取ると、発電所建設は全建設プロジェクトの60%以上を占めている。
総じて言えば、現在、中国が実施している基本政策は石炭火力発電の増加規模を抑えることだ。中国政府はすでに「気候変動対応分野の投融資の促進に関する指導意見」を公布しており、石炭関連の建設プロジェクトへの投資を制限している。中国人民銀行は昨年、「グリーンボンド適格プロジェクトカタログ」を修正し、これから石炭や石炭発電など従来型の化石燃料エネルギープロジェクトの建設は支持しないことにした。
この基本政策は「一帯一路」の共同構築において見事に具現化されている。例えば、中国がパキスタンで建設した発電所の多くは、水力や風力、太陽光などの再生可能エネルギー型の発電所で、また一部の原子力発電所も含む。パキスタンのほかに、中国はモンテネグロで風力発電所を共同建設し、アラブ首長国連邦では太陽光発電所の建設などクリーンエネルギープロジェクトにも注力している。
クリーンエネルギー発電の資源に恵まれていないが、石炭資源は豊富にある国には、中国は石炭火力発電所の建設を支援している。ただし、世界をリードする先進的なクリーン石炭火力技術を駆使し、また二酸化炭素の排出量は、環境保護の基準内に厳格に抑えられている。
要するに、エコで低炭素、持続可能な「一帯一路」を共同構築するという目標の下、中国は常に「一帯一路」沿線諸国と共に成長のためのエネルギー転換を推進し、再生可能なエネルギーの発展に力を入れ、二酸化炭素の排出量を減らし、気候変動に積極的に対応するために貢献している。
中国企業が建設に投資し、昨年4月から商業運転に入っているバングラデシュ初の石炭火力発電所。中国・バングラデシュ両国の企業は、同発電所の株式50%をそれぞれ保有する(新華社)
ワクチンの国際協力に尽力
新型コロナがいまだに世界中で猛威を振るっている。こうした状況を踏まえ、「一帯一路」の国際協力はワクチン面での協力に重点を置き、「一帯一路」を各国国民の生命・安全・健康を守る「命の道」と「健康の道」にするよう努力すべきだ。
中国の製薬企業は、科学的法則と監督・管理の要求に厳格に基づき、規格と秩序を守ってワクチンの研究開発に取り組んでいる。現在、中国では2種類のワクチンが市場に投入されている。厳しいチェックと幅広い臨床試験を経て中国企業が開発したワクチンは、以下の四つの特徴がある。①安全性と有効性が高い②成熟した不活化ワクチン技術を採用している③副反応が少ない④低温輸送と保管施設に対する要求条件が相対的に低い。
中国企業は今、ロシアやエジプト、インドネシア、パキスタン、アラブ首長国連邦など「一帯一路」共同建設のパートナー十数カ国とワクチンの第3フェーズの臨床試験を行っている。中国医薬集団(シノファーム)が発表したアラブ首長国連邦での第3フェーズ臨床試験の中間報告によると、ワクチンの有効性は86%に達し、中和抗体の陽転率は99%で、深刻な安全上のリスクはなかった。
現在、アラブ首長国連邦やインドネシア、バーレーン、パキスタン、ヨルダン、トルコ、ブラジル、チリ、エジプト、フィリピン、ハンガリーなど20余りの「一帯一路」沿線国は、中国企業が生産したワクチンをすでに接種している。
中国は、新型コロナのワクチン開発が完了し接種が始まった後、これを世界の公共財とし、発展途上国におけるワクチンのアクセシビリティー(利用しやすさ)とアフォーダビリティー(適正な費用負担)の実現のために貢献すると約束した。
また中国は、新型コロナウイルスのワクチンを共同購入し途上国などに配分する国際的な枠組みCOVAX(コバックス)ファシリティーに加入し、さらに世界保健機関(WHO)の要請に応じて、主に発展途上国で使用されるワクチン1000万回分の提供を決めた。中国は、「一帯一路」国際協力の場を通してより多くの関連国にワクチンを提供し、世界の感染症との闘いができるだけ早く全面的な勝利を収めるよう後押しする。
中国が援助する新型コロナウイルスのワクチンが今年2月7日、カンボジアに到着。現地スタッフがプノンペン国際空港でワクチンを受け取った(新華社)
「双循環」が新たな力注入
中国は、新たな成長段階に直面した新たな環境・新たな特徴に基づいて、「双循環」という新たな発展の枠組みの構築を打ち出した。いわゆる「双循環」とは、まず中国国内の経済循環を指す。もう一つは中国経済と世界経済の循環を指す。中国は「双循環」という新たな成長の枠組みの構築によって、経済成長をさらに促進するとともに、世界経済の成長に新たなエネルギーを提供しようとしている。
現在、中国は14億人の人口があり、中所得者層は4億人を超え、1億3000万の市場参入者がある。消費面であろうが投資面であろうが、市場が受け入れる空間は大きい。対外開放のさらなる拡大につれ、中国の輸入と対外直接投資は引き続き安定した増加の勢いを保っている。また、中国の輸出と外国人投資家の国内への直接投資は引き続き急速な伸びを続けている。
世界貿易は昨年、感染症の深刻な打撃を受けたにもかかわらず、中国の対外貿易額は4兆6462億5700万㌦と過去最高に達し、前年より1・5%増えた。中国の対外直接投資は1329億4000万㌦で、前年比3・3%増加した。また、年間の中国への外国人投資家による直接投資は前年比4・5%増えた1443億7000万㌦で、昨年は世界で最も外国からの直接投資を受け入れた国となった。
これは現在、中国と世界の経済発展の結び付きがますます強くなっていることを物語っている。また、中国の対外開放の扉がますます大きく開かれるのに伴い、こうした結び付きも一層強くなるだろう。
「一帯一路」は中国が「双循環」発展を促進する重要なプラットフォームだ。この国際協力プラットフォームをよりどころに、中国と「一帯一路」沿線諸国は、貿易や投資、国際製造協力などの各分野で大きな発展を遂げた。昨年、中国と「一帯一路」沿線諸国間の輸出入は1%増加した。そのうち、中国と東南アジア諸国連合(ASEAN)10カ国間の輸出入は7%増加した。また、中国から「一帯一路」沿線諸国に対する非金融分野の直接投資は、さらに大きく18・3%増加した。
中国とASEAN諸国の貿易・投資関係のさらなる向上を踏まえ、ASEAN10カ国と中国、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドが昨年、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定に正式に調印したことは、地域全体および関連諸国の経済発展を促進する上で非常に大きな意義があり、「一帯一路」の共同建設が当該地域の発展をさらに推進する面でも積極的な影響をもたらすだろう。
広西チワン族自治区南寧市で昨年11月27日に開かれた第17回中国-ASEAN(アセアン)博覧会では、「一帯一路」国際展示エリアに優れた商品が集められ、多くの消費者が見学し買い求めていた(新華社)
デジタルで「一帯一路」強化
情報化時代においてインターネット技術に基づくデジタル化が急速に発展し、多くの形式の異なる新たな業態が生まれた。中でもオンラインショッピングやネット教育、オンラインゲーム、遠隔医療などデジタルサービス業界が創り出したデジタル経済は世界各国から重視されている。
「一帯一路」の国際的な協力プラットフォームを共同で構築する上で、中国はすでに16カ国とデジタル経済協力の覚書に調印し、22カ国と共同で「シルクロード電子商取引」の協力プラットフォームを打ち立てている。「一帯一路」関連諸国の感染症の予防・抑制に協力するため、中国の医療の専門家は昨年、ビデオ会議形式で多くの国と新型コロナウイルスの予防・治療の経験を交流、共有した。
中国は、デジタル産業化と産業のデジタル化の発展を推進することにより、デジタル経済の国内総生産(GDP)への寄与率が67%を上回り、「一帯一路」関連諸国に有益な参考を提供している。中でも最も重要なヒントは、発展途上国がデジタル化へのモデルチェンジと発展を効果的に促進できれば、新たに飛躍的発展の道を歩む可能性が高くなり、現代化への発展の道を大幅に短縮するだけでなく、国連の「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が示す要求にも十分に応え、気候変動にもより効果的に対応し、持続可能な発展をより効果的に促進できる、という点だ。
このデジタル化のモデルチェンジと発展という巨大な歴史的チャンスを勝ち取り、「一帯一路」国際協力プラットフォームの積極的な役割を十分に発揮するため、われわれは現在、以下の四つの分野の活動をしっかり行うよう心掛けるべきだと考える。
第一に、デジタル技術をしっかり活用し、防疫効果が一層上がるよう支援する。例えば、健康コードをスキャンして人々の感染状況を効果的に識別する中国のデジタル技術は、広範な「一帯一路」関連諸国が参考にし、運用する価値がある。
第二に、新たなインフラ建設を強化する。5G(第5世代移動通信システム)などの先進的な電気通信インフラの建設を通して、発展途上国のデジタル化への移行プロセスを加速し、インテリジェント農業やスマート製造、スマートシティー、情報産業などのデジタル化経済と社会の発展を促進する。
第三に、公正・正義と多国間主義を堅持し、データの安全を共同して守る。中国は昨年すでに『グローバルデータ安全イニシアチブ』を打ち出し、以下の点を提唱した▽各国がグローバルサプライチェーンの開放・安全・安定の維持に共に努力する▽情報テクノロジーを利用して他国の重要なインフラ施設の重要なデータを破壊・窃取したり、個人情報を侵害したり、他国に対する大規模な監視活動を行うことに反対する▽自国の企業に対して、国外のデータを国内に保存するよう強制したり、直接国外データを収集するよう強制してはならない▽企業が製品とサービスに裏口などを設けてはならない。
第四に、デジタル化時代で、「デジタル・デバイド(格差)」問題により一部の国と国民が新たな貧困に陥るのを防ぐため、多方面に効果的な措置を取ることに特に注意しなければならない。