薛剣中国駐大阪総領事
関西プレスクラブでの中日平和友好条約締結45周年記念特別講演
関西プレスクラブの皆様
本日は8月10日、あと2日で『中日平和友好条約』締結45周年の記念日を迎えます。この特別な時期に、関西プレスクラブ特別講演会にお招きいただき、「中日平和友好条約締結45周年を迎えた中日関係」をテーマにお話でき、また皆様と意見交換できることを、大変嬉しく思います。
一、45年前の1978年、中日両国は長い時間をかけ、多難な交渉を経てようやく平和友好条約を締結しました。これは両国関係史上画期的な一大事件であり、両国それぞれの外交実践においても、「平和友好」と命名された条約の締結は、類を見ない極めて稀なことです。これは1972年に国交回復を実現した『中日共同声明』における双方の約束事であり、それ以上に、近代以降半世紀にも及ぶ悲惨な歴史の教訓から、平和友好を揺るぎない法的義務にしようという両国の共通した決意の表われでもありました。
条約の主な内容は三つあります。一つ目は、中日両国は平和共存五原則(注:主権及び領土保全の相互尊重、相互不可侵、内政に対する相互不干渉、平等互恵並平和共存)の基礎の上に、両国間の恒久的な平和友好関係を発展させることです。
二つ目は、相互の関係において、すべての紛争を平和的手段により解決し、武力または武力による威嚇に訴えないことです。
三つ目は、いずれの当事者も、アジア・太平洋地域においても、または他のいずれの地域においても覇権を求めるべきではなく、また、このような覇権を確立しようとする他のいかなる国または国の集団による試みにも反対することです。これは有名な「反覇権条項」であります。
条約自体は短いものですが、一字一句に重みがあり、歴史的また未来志向の視点をもって、二国間、地域及び世界の3つのレベルから、中日関係に厳粛な法的規範を確立してくれました。鄧小平先生は、条約の締結は我々の予想以上に深い意義を持っているだろうと強調しました。当時の日本国総理大臣福田赳夫先生も、条約の締結によって日中両国の間に「鉄橋」が作られたと高く評価しました。この条約は調印後、両国の立法機関つまり議会の批准を経て正式に発効しました。この条約は両国政府間でなされた政治的約束には止まりません。両国国家間の法的拘束文書にアップグレードされたものであり、これによって平和友好の維持発展は、両国政府だけでなく、各政党・議会・地方自治体・マスメディアなどを含む官民各界が守らなければならない法的義務となったのです。
歴史を振り返れば、条約は中日関係の健全かつ安定した発展の「要石(かなめいし)」となり、両国に平和と発展を保障する貴重な戦略的チャンスを与えてくれました。この45年間、中日関係は風雨を経ながらも長足の発展を遂げ、両国の交流・協力は、最初の細々とした渓流からだんだんと浩々たる大河となり、それぞれの発展を促進しながら、両国民に大きな福祉をもたらしてきました。同時に、中日両国は地域の主要国として、大きく成長する「東アジアの奇跡」を牽引する2大エンジンとして、世界第二、第三位の経済大国として、地域ひいては世界の平和と発展の維持・促進にも積極的な貢献を与えてきました。これは、条約締結の賜物であり、双方が総体的に平和、友好、協力という正しい方向性を貫いてきたおかげです。
中国は平和友好を真剣に守り、忠実に実践してきました。習近平主席が繰り返して中国の平和論を強調しています。つまり、平和というのは、太陽の光や空気のようなもので、普段その恩恵を受けながらもあまり意識されないが、しかし、一旦失えば生きていくことさえ難しくなると。言い換えれば、平和がなければ、何も始まらないことと言うことです。近代以降の長い間、中国人民は日本を含む列強の侵略、戦火の蹂躙に苦しめられ、戦争の悲惨さと平和の尊さを骨身に染みてよく分かっています。74年前新中国の建国、特に45年前改革開放以降になってはじめて、中国は本当の意味で平和発展がスタートし、その恩恵を本格的に享受できるようになりました。私たちは、ようやく手にした平和を、誰よりも大切にしているつもりです。
中国は今、中国式現代化によって、中華民族の偉大な復興を全面的に推進しています。中国式現代化には5つの特徴があります。第一に人口規模が膨大であること、第二に全ての人民が共同富裕を成し遂げること、第三に物質文明と精神文明の調和をとること、第四に人間と自然が調和し共生すること、第五に平和的発展の道を歩むことです。中国式現代化を貫く主旋律が「和」です。この「和」は人間自身、人間と人間、人間と社会、人間と自然の「和」であり、中国と世界の「和」でもあります。
中国は、平和・発展・協力・ウィンウィンの歴史的流れは止められるものではなく、それは人心の向かうところであり、大勢の赴くところであると確信しています。10年前、時代の変化に応えて、習近平主席は人類運命共同体の構築を推進するという大きな革新的理念を打ち出し、今の世界が抱えるさまざまな危機や課題に対応するための中国プランを提示しました。この10年来、中国は新型の国際関係の構築を積極的に推進し、「共に協議、共に建設、共に享受する」という大原則の下、「一帯一路」の建設を推進してきました。近年、習近平主席はまた、国際社会に対し、相次いで「3大イニシアティブ」を提唱しました。一つ目は「グローバル開発イニシアティブ」であります。団結力ある平等で均衡のとれた包括的なグローバル開発パートナーシップの構築を提唱し、160余りの国と地域に開発援助を提供し、南北の経済格差や開発赤字の解消に取り組み、各国の現代化追求の努力を支援しています。二つ目は「グローバル安全保障イニシアティブ」であります。共同・総合・協力・持続可能な新安全保障観を堅持し、対抗ではなく対話、同盟ではなくパートナーシップ、ゼロサムではなくウィンウィンという新しい安全保障の道を切り拓くことを提唱·実践しています。三つ目は「グローバル文明イニシアティブ」であります。文明間の交流によって隔たりを乗り越え、学び合いによって衝突を回避し、受け入れ合いによって優劣意識を無くすと共に、自身の価値観や発展モデルの他者への押し付けや、イデオロギーの対立に反対することを提唱·実践しています。
中国の戦略的意図は、とても透明でありオープンなものであります。中国は常に平和・発展・協力・ウィンウィンの旗を高く掲げ、世界の平和と発展を固く守る中で自らの発展を図り、自らの発展によって世界の平和と発展をよりよく守っていきます。中国は他国による覇権を恐れませんし、自らが覇権を求めることも決してありません。歴史的に見れば分かるように、隆盛を極めた時代においても中国は一部で言われるように、国が強くなれば必ず覇を唱えるようなことをしませんでした。それは中国の文化や伝統にそぐわないものであるからです。中国は「平和発展の道を堅持する」ことを憲法に明記した唯一の国であり、核保有国の中で、核兵器の先制不使用を最初から明確に約束した唯一の国でもあります。中国はすでに20余りの多国間軍縮条約に加入しており、核保有国の核戦争の防止に関する共同声明を自ら主導した形で合意させました。私たちは各国と手を携えて前へ進み、それぞれの正当な利益と発展の権利を守り、真の多国間主義と国際社会の公平と正義を守り、国連を核心とする国際システムを守り続けています。
中国は常に中日両国の善隣友好、協力・ウィンウィンを主張しており、この立場は明確で一貫しています。私たちは日本をライバルだと思ったことも、ましてや脅威や敵だと思ったこともありません。中国の発展もまた、日本を含むどの国の脅威になったことはありませんし、これからもそうなることはありません。日本がこれからも平和発展の道を堅持し、客観的かつ理性的な対中認識を確立し、国家戦略の正しい方向性を捉え、「中日両国は互いに協力のパートナーであり、互いに脅威とならない」という政治的合意を実際の政策と具体的な行動に映すことを願っています。中国は日本とともに、条約締結45周年を機に、改めて条約の精神に立ち返り、条約の規定を厳守し、条約の義務を必ず履行して、中日関係の平和・友好・協力の正しい軌道に沿った長期的に亘る発展を図っていきたいと思っています。
三、百年に一度の大変革が加速している今、世界情勢は変化と混乱を交じえながら錯綜しており、世界の平和と安寧が、現実の脅威にさらされつつあります。アジアでは、一部の勢力が冷戦思考やゼロサムゲームにしがみつき、繰り返し台湾や海洋などに係わる問題を人為的に操作し、世界最大の軍事組織NATOをアジアに引き入れようと企み、地域情勢の緊張や衝突リスクを押し上げています。私たちの周辺でようやく手に入れた平和的局面と発展の勢いが今まさに、明らかな地政学的リスクに直面しているのです。
第二次世界大戦終結後、日本は軍国主義による侵略戦争の悲惨な教訓から、平和憲法の下、平和主義の道を歩み、国際的にも認められ、国際社会から尊重を勝ち取りました。「平和国家」は、戦後数十年の間ずっと国際社会における日本の「輝かしい代名詞」であり、日本社会や国民の誇りでもありました。しかしここ数年、その日本には平和について重大な変化が起きています。平和は「平和ぼけ」に汚名化され、平和主義は「積極的平和主義」へと変質させられ、次第に世論の主流から消え、今では平和を主張する勢力や声が抑圧され、とうとう数十年にわたり堅持されてきた平和外交も姿を消されてしまいました。平和主義は死んだと嘆く日本国内外の学者が多くいます。アメリカのタイム誌も「日本は平和主義を捨てるのか」と疑問を投げかけています。歴史のターニングポイントにあたり、日本がどのような戦略的選択を行うのか、国際社会の大きな関心と懸念を集めています。
対中政策において日本側は昨今、中国の位置づけを公然と「戦略的互恵の協力パートナー」から「これまでにない最大の戦略的挑戦」へと変更させ、特定の国による中国封じ込めに追従し、「中国脅威」を大げさに吹聴し、さらに台湾、新疆、香港等に係わる問題において中国の内政を乱暴に干渉しています。これらのやり方は、明らかに平和友好条約を含む中日間の4つの政治文書の原則と精神に違反しています。
平和について日本側のこれらの重大な変化は、中日平和友好条約締結の初心に立ち返ることの必要性と重要性を逆説的に裏付けていると言えるでしょう。時代がどのように変わっても、条約が示す諸原則とその精神は少しも色あせておらず、新しい時代の中で、逆にますますその輝きを放っていると言えます。それは双方が中日関係を処理する上で常に厳守すべき根幹であり、今、世界が直面している様々な危機と課題の解決にも重要且つ現実的な価値と意義を持つもので、私たちが共に大切にすべき貴重な財産であると思います。
中日両国は地理的に近く、いわば永遠の近隣です。中日両国は、文化の縁でつながり、漢字文化を共有しており、中国は日本の文化的母国とも言えます。中日両国は、血縁でもつながっています。昔から遣隋使、遣唐使を含む数えきれないほどの日本人が中国大陸へ渡ったまま帰らず、同様に数えきれないほどの「渡来人」と言われる中国人もまた海を渡り日本列島に根を下ろしており、双方は近隣関係を超えた親戚関係にあるとも言えます。
国交正常化以降、二国間の貿易投資、人的往来は記録を更新し続け、各分野での交流・協力はそれまでにないほど緊密になり、「メイド・イン・チャイナ」「メイド・イン・ジャパン」或いは「メイド・バイ・チャイナ」「メイド・バイ・チャイナ」が、両国民の衣・食・住を含むあらゆる場面に深く溶け込んでいます。これは世界的に見ても珍しいことで、ここからも双方がすでに切っても切れない、持ちつ持たれつの運命共同体となっていることを実感できるでしょう。
一方で、中日関係は今、重要な岐路に立たされており、国交正常化以降最も複雑な局面を迎えています。情勢が複雑であればあるほど、私たちは理性を保ち、冷静でいなければなりません。実際に、平和・友好・協力の正しい方向性を堅持したからこそ、私たちは中日関係を推進し、前人未到の発展を遂げることができたのです。私たちの前に広がる未知の道をよりよく見極めるために、ここまで歩んできた道を今一度振り返ってみる必要があります。特に見るべきなのは、平和友好こそ、最もコスパの良い、最も信頼できる安全保障だということです。両国関係が困難にぶつかったからといって友好の信念が揺らいだり、両国の社会に否定的な声が増えているからといって迷いが生じたりするようではいけません。中日友好が双方の共通の利益に合致する、唯一の正しい選択であると確信するべきです。私たちが平和友好の初心を強く持ち続ける限り、中日関係はあらゆる困難や障害を克服し、常に正しい道に沿って前進することができます。
西日本地区にはもともと「民間先行、以民促官」の優れた伝統があります。中国駐大阪総領事として着任して2年余り、私は常に中日両国の地方民間交流の推進を自身の重要な使命としてきました。先日、中国駐大阪総領事館は地域官民各界の友好人士とともに香川県で、第6回西日本地区中日友好交流大会を盛大に開催しました。500人もの方々が出席してくれました。大会では、みんなで平和友好条約締結45周年を記念するとともに、中日友好をもっと信義を重んじ、もっと元気いっぱいで、もっと身近で、もっと心震わせる、もっと多くの人の心に届く、もっと持続可能なものにしようと友好宣言を全会一致で採択し、両国社会に力強く呼びかけました。皆さんの中日友好交流協力強化への意欲と情熱には、本当に心を動かされましたし、双方の民間交流を推進していく私たちの自信と決意もいっそう強いものとなりました。この点について、私なりに考えたことや実感を、ここでもご紹介し、皆さんと共有したいと思います。
第一に交流を強化し、実事求是で理解を促すことです。ここ数年、中日民間友好の気運がしぼみ、特に日本の皆さんの対中国観が思わしくありません。その原因は、主に双方の間に真実・客観・全面的な相互理解が欠けており、特に日本側の新時代中国についての理解が著しく欠如していることです。コロナ前、中国を訪れる日本人は毎年延べ二百数十万人でしたが、その8割がビジネス上の往来の繰り返しで、実際に中国を訪れた日本人の数は極めて限られたものでした。コロナ期間中の3年間で双方の往来はほぼゼロとなり、日本の皆さんは中国との心の距離がさらに開いてしまいました。コロナの暗雲が晴れつつある今、双方の国民が相互訪問を強化し、再び中日「国民大交流新時代」の幕開けを迎えることを期待しています。つい先ほど入った情報ですが、中国文化旅遊部は団体旅行再開第3陣の国と地域のリストを公表し、日本もその中に入っています。これから、より大勢の中国人観光客が日本にやってくると予想されるでしょう。それと同時に、より多くの日本人観光客が中国を訪問することも望ましいです。日本の皆さんも新時代中国の発展や変化をその目で見て、身をもって体験する機会さえあれば、きっと少しずつ客観的、理性的、積極的な対中意識を確立でき、正確な情報の欠如による誤解や判断ミスをなくすことができると私は強く信じています。
双方の国民に直接的交流チャネルがまだ不足している中で、互いの認識の構築に大きな役割を果たすのが、ご在席の皆さんを含む報道機関です。私はこれまで何度もツイッターで日本のメディアの中国報道を批判してきました。今回の質問リストの中で、私を「好戦的」な総領事という方もいらっしゃいます。これまで30年以上、対日外交に携わってきた一外交官として、日本メディアが毎日朝から晩まで一様に行う中国のネガティブキャンペーンや、理非曲直を問わない中国への悪意的な攻撃を前に、私は困惑し、憂慮を感じずにはいられません。なぜなら、事実から著しく逸脱したこれらの反中報道が日本の視聴者に伝えているのは客観的で真実の中国などでは全くなく、日本国民の対中意識をミスリードし、強力な反中感情を形成しているからです。そしてその反中感情が今度は日本の対中政治の生態系を毒し、日本政府の対中政策をハイジャックし、最終的に中日関係を悪循環に陥れているのです。日本メディアは中国に100人近い特派員を駐在させており、その数は他のどの国よりも多く、よほどの理由がない限り、日本メディアの中国報道がこれほどひどいものにはならないはずです。これほどまでに中国を曲解・誤読し、さらには中国を中傷し悪者扱いして、それが日本にとって何の得になるのか、皆さんはお考えになったことがあるのでしょうか。
率直に申し上げると、急速に勃興する中国をいかに正しく捉えられるか、中国と平和友好の形で付き合い続けられるか、それは日本が冷戦終結後ずっと直面し続けてきた世紀の課題であり、日本の将来の発展と今後の運命を左右するものです。この問題において、日本は明治維新以来の重大な戦略的選択を再び迫られていると言えます。残念ながら、日本は未だに正解を見出しておらず、誤った方向へと走り続けています。来年、孫文先生が神戸市で行われた有名な「大アジア主義」講演100周年を迎えます。彼はあの講演の中で、当時著しく軍国主義化していた日本に厳しく問いかけました。即ち、日本は「西洋覇道の鷹犬となるか、それとも東洋王道の干城となるか」。100年経とうとする今、私も同じ言葉で日本の皆さんに問いかけたいです。
中国の古い言葉に、「親仁善隣は国の宝だ」とあります。報道機関の皆様には、強い歴史的責任感と、不偏不党・客観公正の報道倫理と、最も大きな隣国中国に対する最低限の誠意と善意に基づいて、中日平和友好という方向性から大きく逸脱してしまった中国報道を真剣に反省・是正し、中国への先入観・偏見・優越感から脱却し、両国民の相互理解の促進にしかるべき建設的役割を果たしてもらいたいと思います。中でも、特に二つの関係をうまく処理する必要があります。一つは、古代中国と現代中国との関係です。二つ目は14億の中国人民と9800万を超える党員を有する中国共産党との関係です。それぞれの両者を当然のことのように引き裂いて対立させたり、むやみに排斥・取捨選択したりしてはいけません。そうでなければ、客観的かつ真実の中国を見ることはできませんし、日本の国益を大きく傷付けることになりかねません。
第二に敬隣永安、求同存異(隣国を敬い末永い安定を図り、共通点を求め相違点を残しておくこと)で難題を解決することです。相互尊重は中日友好を発展させるための前提と基盤であり、国と国との交流の基本的礼儀でもあります。中日両国は国交回復当初から、互いの社会制度、政治体制、イデオロギーなどにおける違いについて明確に認めて尊重し、それでも友好関係を発展させるべきであり、また発展させることができると強調してきました。これが私たちの言う「求同存異」です。中日関係の50年余りの発展も、異なる制度の道を歩む国同士であっても平和共存、友好協力、共同発展が十分可能であることを、事実をもって証明しています。今日において、双方はなおさら対等に接し、互いの差異を受け入れ合い、相手が自主的に選択した発展の道を尊重し、内政不干渉の厳粛な約束を遵守すべきであり、上から目線の偉そうな態度で、自身の価値判断やモデル基準を相手に押し付けたり、ましてや相手を改造しようなどとすべきではありません。
もちろん、「求同存異」は矛盾を完全に避けて通ることではありません。中日間の共通点や共通の利益は、矛盾より遥かに大きいです。個別の一時的に解決できない問題についても、双方は棚上げ、触れない、または両国の平和友好協力の大局に影響しないようにするという選択は完全に可能です。これこそ、東洋文明国家が持つべき大いなる知恵です。この方面において、中日両国の先輩指導者と政治家たちが、私達にとても良い手本を示してくれています。私たちは中日関係を大局的かつ長期的な視点から捉え、東洋の知恵を駆使しながら、互いの矛盾をうまく管理・解消していかなければなりません。
第三に心と心を通わせ、精神面のつながりで友情を深め、共通認識に達することです。国交正常化以降の中日関係の発展には大きな偏りがあり、物質的の結びつきは非常に緊密で、不可分なものとなっていますが、精神面でのつながりは明らかに遅れて、貧弱な状況にあります。国民同士の心の距離は遠くなるばかりで、共通項であるはずの歴史的·文化的なつながりや共通価値の掘り起こしが十分でなく関心度も高くありません。私たちはこのような局面を一変させ、物心両面ともにゆたかで強靱な関係を追求すべきで、これこそ新時代の要請に合致する中日関係のあるべき姿なのではないでしょうか。
物心両面ともにゆたかで強靱な中日関係の構築は、私たちが絶対成すべきことであり、またきっと実現可能なことでもあります。中日両国は今の世界で漢字文化を共有するただ二つの国同士であり、いずれも儒教文化圏に属し、「和を以て貴しと為す」「和して同ぜず」「求同存異」などの価値理念を共有しています。昨今、一部の国ではいわゆる価値観外交を繰り広げ、いわゆる共通の価値観を謳い、イデオロギーの対立を突出させようとしています。私が思うに、彼らの言う共通の価値観は、完全に政治的排他的なものであり、普遍性もなければ包容性もないものです。それに対し、中日間の共通の価値観は、重厚な歴史的つながりと持続的な文明の蓄積に根差したもので、両国民の遺伝子に深く入り込んだ、より根本的なものであり、ともに大切にしながら発揚していく値するものです。私たちは2000年に渡る中日両国の交流や学び合いの中で形成された人文的つながりと価値のつながりの中から、新しい知恵と力を汲み取っていくべきです。
着任して以来、私は仏教、美術、音楽、漢字、盆栽、グルメなど、多種多様な文化交流を展開していた中で、これら共通の文化的価値を認め合うことが、両国民の心の深いところでの共鳴を引き起こし、互いの心の距離を急速に縮め、ひいては新時代の中日友好を育むための独自のリソースとなり、有効な足がかりとなることに気づいています。しかし、これらのリソースや足掛かりのほとんどが休眠状態にあります。私たちはともに新たな発見の旅をスタートし、両国民の思想、文化、宗教、芸術など精神面での共通点を深く掘り下げることがとても有意義です。まだ知られていない「眠れる資産」を呼び覚まし、活性化させ、うまく活用することで、それらに再び時代の輝きを取り戻させ、両国民の心と心の間に橋を架けていきましょう。
第四に、民間の力を発動し、草の根に分け入って勢いを蓄えることです。広範な民衆の参加をなくして、中日友好事業は長続きはしません。民間交流の炎を再び燃え上がらせ、ほとんど氷点に近くなってしまった日本人の対中感情を一定レベルまで回復させてこそ、真の「以民促官(民を以て官を促すこと)」を実現し、両国関係の改善を推進することができます。日本国内の状況から見て、中日関係の今の複雑な局面において、問題は主に上層部に集中しており、その問題を解く鍵は末端にあると考えています。中日友好の根幹は民間にあり、民間友好は中日関係独自の優位性です。当時、中日国交が回復したのもそれによるところが非常に大きいです。中日関係が今のような状態になったのは、長い時間をかけてできた「分厚い氷」のようなもので、即効性のある解決策はなく、再度民間からアクションを取るしかありません。私たちは民間友好の優れた伝統を大いに発揮し、広く継続的な民間友好交流を展開し、両国民の相互理解を深めていかなければなりません。こうして互いへの信頼と友好感情を少しずつ回復させ、政治レベルの難題を解決し、両国関係の新たな局面を切り開くための土台を作り、条件を揃え、環境を整えていくことが可能でしょう。
そのために、中日友好事業はもっと重心を下げ、草の根に分け入り、民間の力を発動しなければなりません。私も畑で農作業をしたり、カキ漁に出たり、工場で大工仕事をするなど、いろいろな模索や試みを行ってきました。このような交流は、ささやかなものかもしれませんが、小さな炎は、やがて大きな炎へと広がっていくものです。時間をかけて多くの人が参加すれば、それが積もり積もってやがて大きな勢いとなり、中日友好の新たな局面を切り拓くことができるでしょう。
お集りの皆さん
45年前、両国の先人たちが知恵を尽くし、私たちに中日関係の方向性を示し、政治的法的規範を作り、大きな福祉をもたらしてくれました。45年経った今、中日関係の新たな局面や試練に直面している私たちは、強い使命感と責任感をもって、私たちの世代なりの知恵と勇気を出して、条約等中日間の4つの政治文書で確立された諸原則やその後の共通認識を遵守し、子々孫々のために平和友好を守り、より明るい未来をともに支え合っていきましょう。ご清聴ありがとうございました。