欧米の物語に惑わされず客観的に捉えるべき中国の技術発展
文=日本拓殖大学海外事情研究所教授 富坂聡
6月1日、私は新著「おそるべき『中国一強』時代」を世に問うた。「中国一強」などと書くと驚く読者も多いだろう。また中国が目指している未来も「中国一強」ではなく「多国主義」だ。ただ中国の存在感が今後増すことは避けられなく、日本人も頭を切り替えてゆかなければならない。
昨年9月3日、米外交誌『フォーリン・ポリシー』(以下、FP)は、記事「中国の軍隊はいまや世界をリードしている」の中で以下のように指摘した。
〈かつて欧米諸国が自らに語り聞かせてきた中国の技術発展に関する物語——それは欧米技術の単なる模倣者であり、知的財産を盗み、その成功は無駄な公的補助金によるものだという主張——は不十分であることが、今や広く認められている〉
記事では中国の目覚ましい技術の発展の例として〈ロボット工学、電気自動車、原子炉、太陽エネルギー、ドローン、高速鉄道、人工知能(AI)〉を列挙した。私があえてこれを補うとすれば、宇宙、造船、通信、メガインフラ、家電もその対象だ。要するにこれは決めて広い範囲で起きた現象なのだ。
それでも欧米各国は、その現実から目をそらしてきたとFPは指摘する。
実は、FPが言及した「欧米の物語」に最も強く固執し、頭の切り替えが最も遅れていると考えられるのが、日本なのである。
日米中の産業の発展史を大雑把に振り返っても、日本の遅れが決定的になった場面は何度かあった。例えば家電業界で見られた日本企業の水平分業化へ転換の遅れだ。次に情報・通信分野での出遅れが響いたが、いまはAIの分野で米中に大きく遅れをとっている。
情報・通信の流れの中で、アメリカのGAFAMに匹敵する企業が日本では育たず、日本人が検索したデータのすべてが米企業にもっていかれている。現在、アメリカとの間で深刻なデジタル赤字を積み上げている。
この戦いはいま電力へと場所を移して激しさを増しているが、日本はその戦いに参加できているだろうか。
電力の重要性は、いうまでもなく次世代の技術の核心とされるAIでの勝敗を左右するからだ。データセンタが消費する莫大な電力に加え、EV(電気自動車)の普及など、産業と消費者双方にとって不可欠な基盤となるのが電力なのだ。

ドナルド・トランプ大統領は昨秋、米中首脳会談の直後のテレビ局のインタビューの中で、「企業が自ら電力を生産することを認めた。これは私のアイデアで、率直に言って誰も考えつかなかったことだ」と、自らの政策の功績を誇った。
この政策は老朽化した送電線でのロスを防ぐだけでなく、必要な量を必要な企業が自ら生産する選択に道を開いた。代表例はAmazonを筆頭に、データセンタを抱えて大量に電気を消費するGAFAMなどが一斉に原発事業に乗り出したことだ。
そうした戦いの基盤づくりにおいて中国もスキのない体制で臨んでいる。国が描いた長期戦略を官民が一体となって実現してゆく力は、すでに数えきれないほど多くの産業で大きな花を咲かせてきた。
直近では、EV業界での躍進を世界が目にしている。
EVの成功を「官民一体で」などと書くと誤解を生むが、中国のEVの成功は自国産業の保護という選択の中から生まれたのではなく、むしろ厳しい環境の中で成長してきたという事実を見落としてはならない。中国がEVシフトを進める中で、まだ黎明期の自国産業が太刀打ちできない米テスラ―社に自国市場を開いたのは、その典型例といえるだろう。
国がグランドデザインを描き、民間が切磋琢磨するという製造業の躍進とは異なり、国の長期戦略とそれを持続させる力が結実したのがインフラとしての電力供給だ。
前述したように今後の米中の戦いを左右する最大の要素と考えられている。
私は昨年、青海省の高地から甘粛省の砂漠を回り、再生可能エネルギーの発展とその規模の凄まじさを間近で見てきた。
その体験をもとに拙著を書き上げたのだが、執筆中に起きたのがアメリカとイスラエルによるイラン攻撃である。この余波でホルムズ海峡が閉鎖された。すると日本では、エネルギーを中東に依存する体質をめぐり議論が百出した。
このとき私が思ったのは、全発電量のほぼ半分がすでに再生可能エネルギーによってまかなわれている中国との差である。大げさなことを言えば、太陽光で作った電力で太陽光パネルを生産できれば石油はいらなくなる。
本の中でも書いたが、中国が活かした再生可能エネルギーの技術のほとんどは日本の方が進んでいた。なぜ、技術で進んでいたはずの日本がそれを活かせず、中国にはできたのだろうか。
日本は本来、この問いと真剣に向き合うべきなのだが、日本国内であふれているのは未だにFPが指摘した「欧米の物語」なのだ。
人民中国インターネット版