美しい髪

2022-01-29 18:53:11


李桂芳=文

鄒源=イラスト

 鏡に向かって彼女は丁寧に眉を描き、口紅を塗った。ばっちり決まった化粧を見て、彼女は満足そうにほほ笑んだ。そして真新しい髪を見やると、わずかにカールした金髪が、彼女の顔をより白く引き立てていた。

 実家へ向かうバスに乗ると、彼女の心は早々に母親のもとへと戻っていった。庭の戸を押し開けると、彼女を目にした母親が、「あら、1年見ないうちに、わが娘はますます美人になったわね」と喜びの声を上げた。

 「顔色もいいし、唇も赤くて本当にきれいよ。この髪は染めたばかりなの?」。母は手を伸ばして触ろうとした。彼女は茶目っ気たっぷりに頭を振り、「ママ、セットしたばかりの髪をいじってダメにしないでよ、もったいない」と言った。

 「あなたの髪は豆腐でできているの? 触って壊れるなんて」と母は笑って言い、家に入ると、おいしそうな香りを漂わせている焼き芋を彼女に手渡した。

 あつあつの焼き芋からは甘い汁が出ていて、彼女は口を大きく開けてかじりつき、「ほんとおいしいわ、やっぱりママが焼いたお芋はおいしい!」と言った。焼き芋を食べ、頭を挙げて頭上の太陽を見て、「ママ、お日様が出ているうちに髪を洗ってあげるわ」と言った。

 「私も髪を洗ってもらおうと、あなたが帰ってくるのを待っていたのよ」と母は目を細めてほほ笑んだ。家を出て働いてから、家に戻って来るといつも、彼女は母の髪を洗い、その髪を洗う時間は一本一本の銀の針のように、母と娘の深い愛情を緻密に縫い上げていた。

 彼女は優しくもみ洗いしながら、涙をひそかに流し、それは目の前のたらいの中に落ちた。「ママはもう年だから、髪が真っ白になってしまったけど、あなたの髪とは違うわ。あなたのはとてもきれいよ」と母はゆったりと言った。「ママ、白髪もきれいよ。都会にはおしゃれとしてわざわざ真っ白に染めている人もいるくらい」と彼女は軽く笑った。

 「そうなの? 白髪になって、年を取ったから、もう何年も生きられないかも。この1年、ママは毎日あなたが早く帰ってこないかと楽しみにしていたの。あなたは仕事が忙しいってお兄ちゃんは言っていたわ。私はね、忙しくてもわが娘が体を壊さなきゃいいなあって思っていたの。後でお兄ちゃんが、あなたは忙しくて本当に体を壊したけど、大丈夫、すぐに良くなるからって言って……」。母はくどくどとしゃべり続けた。

 彼女は涙が落ちないよう、泣き出さないように必死でこらえた。髪を洗い終えると、ドライヤーを使って丁寧に母の髪を乾かした。

 その夜、母は彼女を抱き締め、痩せ細った手で彼女の手や腰をさすり、最後に髪をなでた。彼女はすぐに頭をひねって「ママ、寝てよ。私は眠い」と笑いながら言った。

 彼女は軽い寝息を立てているように装った。母はため息をつき、「天の神様、私の哀れな娘をお助けくださいませ」と小声で言った。目から涙が流れ落ちたが、母に異変を感じ取られたくなくて、彼女は身動きができなかった。

 翌日、帰りのバスに乗った。途中で母が電話をしてきて、「あなたのバッグの中に1万元があるけど、それはあなたが私にくれた5000元にさらに5000元を足しておいたものなの。私は家にいるので、あなたみたいに外で使うお金はいらないから」と言った。

  「分かったわ、ママ。覚えておく」。彼女は明るく言った。電話を切ると、思わず顔を覆って泣き出した。2カ月前、彼女は医者から「生きられてもせいぜい1年」という余命宣告を受けていたのだ。

  この時、村の入り口に立っていた母は、遠くを見ながら、「娘よ、ママはあなたが重病で、化学療法で髪が抜け、かつらをかぶっていたことを知っている。でもママは、あなたのような親孝行の子どもは、天の神様が守ってくれるものと信じている」とつぶやいていた。

 

翻訳にあたって

 私が北京に住んでいた頃、古い平屋が軒を連ねる庶民的な街を歩いていると、天気のよい日には、外にたらいを出して髪を洗っている人をよく見掛けたものだ。こうした家々には風呂がないことが多く、また乾燥した気候なので、それほど風呂に入る必要もないことから、暖かい日を選んで外で髪だけ洗っていたと思われる。今ではこうした光景もかなり少なくなっているに違いない。田舎に住む母と都会に住む娘の絆を感じさせるエピソードとして「洗髪」が選ばれているのも、外での洗髪にノスタルジーを感じるからだろう。 (福井ゆり子)

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