君のほほ笑みはお茶の香り

2022-10-14 17:25:22

 

藍月=文 

鄒源=イラスト 

彼がお茶好きになったのは、ガールフレンドがきっかけだった。 

それは大学生による茶芸の実演だった。そのとき実演していた女の子はライトグリーンのワンピースを着て、腰まであるロングヘアで、世俗から離れた仙女のような落ち着いた物腰だった。彼女がほほ笑むと、その瞬間、柔らかく静かな時が流れたような気がした。そのとき彼は、体に電撃を受けたようなしびれを感じた。 

「君のほほ笑みは本当に美しい。お茶の香りがするよ」。これは彼がガールフレンドに言った初めての言葉だ。 

ガールフレンドは確かにお茶の香りに浸って育った。実家は洞庭西山(太湖南東部にある島)にあり、茶畑を所有していた。広大な太湖が広がり、山じゅう茶の木が茂っていた。たおやかで美しいガールフレンドは、芽吹いたばかりの柔らかな葉のようで、愛さずにはいられなかった。 

時はあっという間に過ぎ去り、間もなく卒業という時期になった。ガールフレンドは彼に、「父はもう年なので、私たちに戻って来て茶畑を引き継いでもらいたがっている」と言った。それに対し彼は、「茶畑での生活は厳しい。愛する女性に苦労をさせたくないし、自分もそこにはいたくない。茶畑は美しいが、僕の理想とする人生を実現することはできない。僕はビジネスの世界で、を振るって成功を手にするんだ」と返した。 

彼は商社に入って、生き生きと仕事をした。ガールフレンドは依然として茶を愛し、毎日彼のためにおいしいお茶を入れ、彼はそれをそそくさと一口飲んで家を出た。彼はあまりに忙しかったので、落ち着いてお茶を味わっている時間はなかったのだ。ビジネスの世界はまるで戦場で、戦場では酒場に頼るものだ。彼は自分の酒量を誇りにしており、向かうところ敵なしだった。 

この日、彼は酒場をはしごし、また全勝した。他の人では手に入れることができなかった契約を取って、意気揚々と車の前まで歩いて行ったが、そのとき突然心臓に激痛を感じ、倒れた。 

目が覚めたとき、彼は蒼白となったガールフレンドを目にし、自分が地獄の入り口まで行っていたことを悟った。この日、彼は今後酒を飲まず、体が回復したら、ガールフレンドの父の茶畑を手伝いに行くと約束した。彼は約束を違えることなく、回復した後、本当に茶畑へ行き、一日中茶畑の中を歩き回った。 

ガールフレンドは彼を気遣い、「経営だけやっていればいいのよ、何もそんなに苦労しなくても」と言った。 

彼は笑って、「やろうと思ったからにはしっかりやるよ。茶の全てを理解したいんだ」と言った。 

彼は本当に茶畑、茶の木、そして茶の木に芽生えた緑の葉一枚一枚を愛するようになった。彼は茶畑で茶作りの経験を積み、純粋な手作業を維持し続け、心を込めて素晴らしいお茶を作った。茶葉の優れた品質と彼の経営の才覚のおかげで、茶葉の注文は途絶えることがなかった。 

このとき、ガールフレンドはすでに妻となっていて、二人はしょっちゅう手をつないで茶畑を散歩していた。 

「君は僕がいつからお茶を好きになったか、知っているかい?」 

「もちろん、知っているわ。でもあなたの言葉を聞きたい」。妻はしっかりと立ち、彼の瞳を見つめた。 

妻は彼を最も理解しており、この理解こそ、まさに彼が彼女を大切に思う理由だった。 

「倒れたあのとき、僕はうつらうつらまた大学のキャンパスに戻って、初めて君の家の茶畑に行ったときの夢を見たんだ。君の笑顔は本当に美しく、茶の香りがした。意識が戻って君の顔を見た瞬間、僕は君に畑いっぱいの茶の香りを贈ろう、君をまた不安におののかせてはいけないと決心したんだ」 

「あなたは自分でやろうと決めたことなら、何でもうまくできるわ。今では、あなたのほほ笑みにも茶の香りがする」と、妻は花が咲きこぼれるように笑った。 

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